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今年こそ戦争を考えよう 戦後75年の特殊性

※文化時報2020年8月8日号に掲載された社説「戦後75年の特殊性」の全文を転載します。

 昭和16(1941)年、日本はなぜ勝ち目のないアメリカとの戦争を始めたのだろうか。そんな一文から始まる『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』(牧野邦昭著、新潮社)が出版されたのは、2年前のことだ。陸軍省戦争経済研究班(通称・秋丸機関)の未発見資料を基に、日本が開戦に踏み切った経緯を丹念に分析した良書である。

 開戦直前、日本はアメリカによる資産凍結や石油禁輸などで窮地に追い込まれていた。日米の経済力には大きな差があり、戦争すれば敗北は確実だという予測を、すでに国のさまざまな機関がシミュレーションで示していた。

 これを「無視して」軍部や指導者が開戦へ突き進んだという通説を、著者は否定する。むしろ、軍部や指導者の誰もが敗北の予測を認識していたのに、開戦を決めてしまったのだ、と。

 著者が根拠としたのは、行動経済学と社会心理学の知見だ。人間は損をする選択肢では一か八かを選びがちだという「プロスペクト理論」と、集団による意思決定は個人よりも結論が極端になりやすいという「リスキーシフト」に基づき、こう説明した。

 「日本の指導者にとっては、3年後の確実な敗北よりも、国際情勢次第で結末が変化し、場合によっては日本に有利に働くかもしれない開戦の方が『まだまし』と思えたのである」

 二度と戦争を繰り返さないと誓う私たちは、こうした指導者の過ちについて、今年こそ真剣に考えるべきだ。戦後75年の節目だからというだけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大という特殊な状況下を生きているからである。

 緊急事態宣言の前よりも新規感染者数が増え、クラスター(感染者集団)が多発しているのに、政府は経済重視の姿勢を崩さない。専門家から延期を提言されたにもかかわらず、観光支援事業「Go Toトラベル」を強行し、人々に往来を促している。

 この判断はまさしく、感染症対策を徹底して確実に景気を悪化させるよりも、コロナ禍の終息に根拠のない希望的観測を持ち、経済活動を止めない方が「まだまし」と考えている証左ではないのか。

 ウイルスとの闘いにおいても、政府が戦前と同様、正確な情報を得ながら不合理な政策決定を行っているのなら、これほど危ういことはない。戦争協力の過去を反省している伝統教団には、かけがえのない命こそ最優先すべきだとの正論をもって、経済原理の枠外から政府に対峙してほしい。

 日米開戦をより強硬に主張したのは、世論だったと言われている。私たちは、しばしば誤る。いかなる圧力や迎合をも退けるという気概を持った宗教者が多く登場するときこそ、日本は先の大戦の失敗から学んだと言えるのかもしれない。

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