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復興へ 福島の春②避難に比べれば、コロナ禍なんて

※文化時報2021年1月11日号の掲載記事を再構成しました。写真は一人で「おみがき」をする木ノ下さん。

 「事故当初の絶望感はなくなったね」

 真宗大谷派原町別院(福島県南相馬市)の職員で僧侶の木ノ下秀俊さんは、福島第1原子力発電所事故の後から期間を1日に短縮して営んできた報恩講を前に、仏具を磨く手を止めて語った。

 仏具の「おみがき」は例年、門徒らも一緒になって行う。今年は新型コロナウイルスの影響でかなわず、遠方からの法要出仕も取りやめたが、表情は暗くない。事故から10年で門徒の世代交代が進み、別院を護持するための年会費を納めている人は、震災前と同程度まで回復した。

 「コロナ禍は原発事故の時とよく似ている。10年前は何も分からなかったが、今はいろいろ見えてきた。『原発事故の避難に比べれば、家の中にいればいいコロナ禍なんて、どうということはない』というご門徒もいる」

「土徳」を受け継ぐ

 原町別院のある南相馬市原町区は、福島第1原発から30㌔㍍圏内に位置し、住民らは2011年9月ごろまで避難していた。別院では、本堂の屋根に付着した放射性物質が雨水で境内に流れ、庫裏の周囲は放射線量が毎時0.6マイクロシーベルト以上あった。2度の除染作業で現在は毎時0.1マイクロシーベルト程度まで下がっており、「日常生活に不安がないわけではないが、10年たてば少しずつ数値も下がってくる」と前を向く。

 篤信の門徒が多い原町別院は、震災の年も報恩講を勤めた。周辺の8地区には、地区ごとの報恩講もあり、新年会を兼ねて1年交代で1軒ずつ会所を変えながら営んでいる。 

 南相馬市がある相馬双葉地方は江戸時代、飢饉で新たな労働力を求めた相馬中村藩の政策によって、現在の富山県南砺市などから真宗門徒が数多く移民して開墾を進めた。震災のあった2011年は、ちょうど移民200年の節目だった。

 別院の門徒も代々農業を営む家が多い。荒れ果てた土地を開墾した先祖の思いが、教えと共に現在も「土徳」として受け継がれている。一時的であっても、避難を余儀なくされた門徒らの胸中は察するに余りある。

 原発事故後、作物は飼料用が中心となり、農業で生計を立てることは苦しくなった。「仕事がないと暮らせない。次の世代への念仏相続には不安が残る」。木ノ下さんは、新たな課題と向き合っている。

福島の春2 地図

お寺軸に資源生かす

 「コロナ禍と同じ状況は10年前に経験している。当時はもっと苦しかった。この程度では負けない」

 昨年10月に福島県飯舘村の村長に就任した浄土真宗本願寺派善仁寺の杉岡誠住職は、執務室で熱っぽく語った。

 母方の祖父の寺を継ごうと、2000年にIターン。村職員として、震災後は復興農政を手掛けた。次世代に背中を見せようと前を向いて頑張る村民を後押ししようと、村長を志した。

 飯舘村は原発から遠いが、放射性物質が風に乗って浪江町などの山間部を越えて届いたため、避難を強いられた。現在の人口は約5300人。実際に村内で暮らす人は1500人ほどにとどまっており、帰還率は3割にも満たないという。

 一方で実際に暮らす人の1割程度に当たる約140人が新規の転入者という。

 10年たって村の雰囲気は変わってきた。避難指示が解除された17年ごろは積極的な農業への取り組みが少なかったが、現在は前向きに進めようという村民からの要望が相次いでいる。

 「飯舘村には元々、飢饉などを乗り越えて自ら切り開いてきたパイオニアの魂がある」。杉岡住職はそう指摘し、意気込みを見せる。

 「もはや『帰還』という言葉はそぐわない。新しく住む場所として選ばれる村にしたい」

福島②写真2

新村長として農政を手掛ける杉岡住職

 自坊は本堂を修復し、報恩講が営めるようになった。ただ、庫裏は今も震災当時のまま。近隣の門徒宅を借りて暮らし、毎朝本堂でお勤めをしてから登庁しているという。

 門徒は約半数が村内で暮らす。村外で暮らす門徒も、お寺の行事などには駆け付ける。お寺を基軸にして紡いできた歴史は、今も大切にされる。

 「離れていても、このつながりを大事にしたい。村には『ふるさと資源』と呼べるような歴史の産物があることを、村長としても住職としても、しっかりと伝えたい」

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