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笑う門には福来る


図書館に向かって小田急線の長い鉄橋の上を歩いた。真下は、小田急線の上下線が駅に向かって大きくカーブをしている。その先に、車両を掃除する引き込み線があるので、鉄橋がやたらと長い。図書館では、瑠璃子がファッション雑誌を隈なくチェックしている。殆どの最新のファッション雑誌が揃っている珍しい図書館だ。途中、女の子を連れた親子連れが、気ままな娘の歩き方に合わせてゆっくりと駅に向かっている姿や金髪の若い女が早足で駅に向かう姿などを見ながら、敦は図書館に向かった。

どちらからでもなく、朝から散歩をする。敦は、夜半から起きているので、朝という感覚が、全くない。それでも4時頃に眠くなって、寝床に着く。ちょうど、その頃瑠璃子は、瞑想を毎朝20分位行う。起きた頃は、7時だったり、8時だったりする。飯は、適当にインスタントラーメンや残り物、残りごはんをお茶漬けにしたりして夜中に食べる。瑠璃子と息子は朝飯を抜いているので、一人で食べる。そんな生活を5年以上続けている。もう一年以上テレビも無い、二年以上車も無い。ライフスタイルとは、日々変化する。テレビの無い生活など考えられなかった敦だが、なければないでストレスが無くなったと喜んでいる。

図書館は、火曜日というのに、どの席も混んでいた。スターバックスもあるのだが、珈琲を飲みに来たわけじゃ無いので、オープンスペースで席を探す。窓側に15席ほどあり、奥にも10席、図書館側に10席くらいある。だから、大概座れるスペースがあるのだが、運悪く混んでいる場合がある。2階にも10席位あるが、面倒臭いので誰も上がらない。本がすぐあそばにあるからこその席である。1階は、蔦屋の本が陳列されている本屋である。文房具の品揃えもしっかりしている。文房具が敦は大好きだ。シャーペン、ボールペン、万年筆、ノート、手帳などがあるとわくわくする。

当初、図書館と蔦屋のコラボは、市民から大反対を受けた。「図書館の管理も蔦屋にやらすと図書館が蔦屋の売れない在庫の山になる」というのが、概ね噂された意見だった。空けてみると、古書がなくなり、蔵書は綺麗にリニューアルされた。無くなったところで、何も問題が無かった。そういう不満を持っている人たちは、来館しなくなったようだ。どんな事情があっても、市民が集い、利用している。10%位の市民かもしれないが、図書館が憩いの場であることは確かなようだ。

瑠璃子が眼鏡が壊れたというので、以前買った「眼鏡市場」まで歩いて、な押してもらいにいくことにした。また、鉄橋を渡って東口に向かった。郵便局の先に「眼鏡市場」があった。「もう眼鏡屋さんも補聴器が、メインになったのね」と瑠璃子がいう通り、老人マーケットに的を絞って、コンタクトや眼鏡の需要が減り始めているところに、有閑老人の新ニーズの耳のマーケットを開拓している様子が手にとるように分かった。「海老名は戸建ての家が多く、老人天国だものね」と瑠璃子の言った通りだった。そういえば、その天国に一番近いのが敦かもしれないと苦笑した。感じの良い瑠璃子と同じような細いフレームの眼鏡をかけた女店員か直した眼鏡を手渡された瑠璃子は、無料でネジの交換だけして済んだので、挨拶を深くして店を出た。

「次は、猫の草を買わなきゃ」と大型のホームセンターの「島忠」に向かった。一般の花や野菜の種の一角に「ベジタリにゃん 猫の草」がある。意外に見つけにくい。それは上段の真ん中にあった。肥料の「マグアンプ」もついでに買った。野菜も探したが、なかなかいいものが無い。すでに植えていたり、食べたく無かったりして、スルーしてしまった。

無駄な買い物だが、ワゴンに紳士折財布があった。昔は、そこそこのブランド品に拘った敦だが、九百七十円という価格に魅せられて、買いことに決めた。「これは赤みがキツいわよ」という。赤でなく緑だ。黒も茶色だといい切る。何か変だなと思っていたら、瑠璃子は、茶系のサングラスをしていた。やっと気づいて、サングラスを外して確認した結果、黒にした。「あのままだったら、緑を買うところだったよ」と大笑いをした。結果、あまり関係のない買い物をしていた二人だった。

そのまま、餃子の食材を求めて、イオンのスーパーに向かった。「本当に楽しい。一緒にいて良かった。愛してるよ」と瑠璃子から、田んぼが広がる歩道で言われた。急な告白に、照れた敦だが、「俺も愛しているよ」とボツと言った。愉快な気分にされたのは、360度、雲ひとつない青空が広がている天気のように思う。こんな快晴は滅多にないと思う。散歩の楽しさは、日々変わる天気や気温や湿度や空気のためかもしれない。人間の体をコントロールする心も変わる。散歩を「小さな旅」と瑠璃子はよく言う。歩きことで、脳の神経伝達物質の一つである「セロトニン」が活性化するので、ストレスの解消になると言われた。歩く、歩く、歩く、ただそれだけで、幸せになれる。宗教団体のお世話になりより効果的だ。「楽しいことしかやらない」と決めた二人、笑って楽しく過ごす。それには、健康が一番だ。「『笑う門には福来る』本当の福が来そうな気になった。正月も近いしね」と二人は笑った。

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