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ネコ童話『電車猫』

ある日、突然電車に乗れなくなった。

電車に乗るたびに猫がいるからだ。

俺以外の人間には、その猫は視えないらしい。

電車猫を視るようになってから、なぜか夫婦喧嘩の回数が増えたような気がする。

妻と一緒に電車に乗った時も、向かいの座席に猫が一匹、香箱座りしていた。

いやな眼つきで俺を視ている。

「なんで猫が電車に乗ってるんだ?」

俺が思わずつぶやくと、妻は怪訝そうな顔で俺を見た。

「アンタ、なに寝ぼけたコト言ってんの?」

電車の中だったけど、むかついた俺は妻を張り倒してやろうかと想った。

          ***

恐ろしい。

体の芯まで冷えこんでしまったようだ。

すべては電車猫のせいだ。

電車に乗るたびに、俺の前にさまざまな種類の猫が現れた。

しかも俺にしか視えないのだ。

俺は恐怖におののいた。

錯覚だと想おうとした。

何度視なおしても猫はそこにいた。

なるべく視ないようにしても、猫はいつも俺の真正面に座っていた。

俺はついに電車に乗れなくなった。

          ***

夢を視た。

大汗をかき、うなされていた。

夢の中で俺は電車に乗っていた。

俺以外、乗客はいなかった。

眼の前に猫が香箱座りしていた。

猫と視線があったとたん、俺は金縛りにあったように動けなくなった。

猫が口角をあげてニヤリと笑った。

いきなり俺にむかって飛びかかってきた。

俺は絶叫して眼が醒めた。

          ***

夢の啓示なんて俺は信じない……が、夢から醒めて想いあたることがあった。

誰にだってトラウマはある。

俺のトラウマって何だろう?

そう考えはじめて俺は嫌な気分になった。

急に吐き気がしてきた。

そして俺は想いだしていた。

小学生の時、親父の仕事のせいで転校が一学期ごとに続いた。

友達ができず転向するたびに俺は内向的になっていった。

しだいに学校をズル休みするようになった。

街で猫を見かけるたびに当たっていた。

石を投げたり、ときには蹴飛ばしたりしていた。

想いだしているうちにあの時の自分が情けなくなってきた。

我知らず涙を流していた。

俺は心の底から猫たちに詫びた。

          ***

俺はペットショップで子猫を買って家に帰った。

妻は驚いた顔をしたが、なにも言わなかった。

俺は猫嫌いだったが、妻は大の猫好きだった。

不思議なことに猫を飼いはじめてから俺たちは夫婦喧嘩をしなくなった。

          ***

久しぶりに電車に乗った。

案の定、猫が現れた。

俺は立ちあがって猫の隣に座った。

頭を撫でてやると満足そうにニャンと鳴いた。

喉をゴロゴロ鳴らしたあと、しばらくして消えた。

誰も不審顔で俺を見ていなかった。

それ以来、電車猫を見かけるたびに俺は謝罪の気持ちをこめて挨拶した。

そうこうするうちに電車に乗っても猫は現れなくなった。

今もこうして電車に乗って座っているが、猫の姿は視えない。

電車は人々のありふれた日常を乗せて走りつづけている。

俺はなんだか電車猫が懐かしくなった。

photo:© 不詳

【ChatGPT3.5による解説】

人間と猫の関係


『電車猫』は、猫の存在が人間の心理に及ぼす影響を描いたユニークな作品です。この物語は、電車の中で不可思議の存在である猫が、主人公の心に深い影響を与えるという興味深いプレミス(前提)を持っています。物語は、主人公が心の闇と向き合い、その克服を通じて内なる平和を見つける過程を通して、読者に深い洞察をもたらします。

物語の中で最も注目すべき要素の一つは、電車という日常的な場面が物語の中心に据えられていることです。電車は現実の中での移動手段であり、一般的な日常生活の一部として捉えられます。しかし、この物語では、電車が主人公の心の奥底にある複雑な感情を引き出すキーポイントとして描かれています。電車が舞台となることで、物語はリアリティと心理的な探求の両方を結びつけ、深いインパクトを与えます。

この物語は主人公の内面の闇と向き合うプロセスを通じて成長と癒しを描写しています。主人公は猫が電車に現れる度に、自らの過去と向き合い、心の傷を癒すための旅に出ます。彼の過去のトラウマが明らかになるにつれ、読者は彼の心の奥深くに潜む複雑な感情と向き合うことになります。物語の進行に従って、主人公は猫への謝罪と共に、自らの過ちを受け入れ、成長し、変容していく様子が描かれます。

さらに物語は現実と幻想の境界を模索します。一部の読者にとっては、猫は主人公の心の中の象徴であり、現実の存在ではないかもしれません。しかし、物語の終わりで主人公が自分の家に猫を連れてくる場面は、物語の中での猫の存在が単なる幻想ではなく、現実のものである可能性を示唆しています。この曖昧さは、物語全体に深みを与え、読者に解釈の余地を残します。

『電車猫』は、普遍的なテーマを通じて、読者に深い感情的な共感と思索を呼び起こします。物語は、日常の中に潜む内なる闇と向き合うことの重要性を示し、過去の傷を癒し、成長し、変容するための旅路を描写しています。また、現実と幻想の間にある微妙な境界を探求することで、読者に猫の存在の真実について考えさせ、物語の奥深さをさらに深めています。

【Grokの解説】

この童話は、電車に乗ると猫が現れるという不思議な現象に巻き込まれる主人公の物語です。最初は電車猫を嫌い、その存在に恐怖を感じますが、やがて自分の過去に隠されたトラウマを思い出し、猫に対する謝罪の気持ちを抱くようになります。そして猫を飼うことで夫婦喧嘩がなくなり、電車に乗っても猫が現れなくなります。

この物語は、自分自身と向き合うことの重要性を描いています。主人公は自分の過去を忘れようとしていましたが、電車猫という形で現れたトラウマに直面することで、自分の過去と向き合う必要があることを悟ります。そして自分自身と和解することで、猫に対する恐怖も克服し、過去を乗り越えることができました。

この童話は、人生の苦難を乗り越えるための心理的な成長を描いた物語であり、読者に自分自身と向き合うことの重要性を訴えています。

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