ペットよりもキケンなものもの
「ひとり暮らしのアラサー女子が猫を飼い出したらいよいよ危ない」なんて話があったりする。
猫なんていう可愛くてか弱い存在と暮らしてしまったら寂しさを感じなくなって、恋愛から遠のいてしまう、そして婚期を逃してしまう、という、ざっくりそんな意。
わたしは動物があまり得意ではないので、そもそもペットOKのマンションには絶対に住まないけれど(可愛げがなくてざんねん。たぶん、幼稚園の遠足でひよこまみれの囲いに入れられてギャン泣きした体験がトラウマになっている、と信じている)、ペットの他にも、わびしいひとり暮らしを「永遠でもいい」と思えるのものに昇華させる存在はいくらでもあると思う。
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今年4月に引っ越しをしてから、たった三人だけ、遊びに来てくれた。兄、仲よしの女友達、一つ年下の従姉妹。みんなかなり親しい人たちだ。
自分以外の誰かが訪れる度、実は決まって、「すっかり城だねー!」というようなことを言われたりして、びっくりする。「城」という感覚はなかったけれど、言われてみればそうなのかもしれない。
居心地よい空間にするために、ひとつふたつと物を増やしたり減らしたりする中で、わたしによるわたしのための、わたしだけの特別な孤城が築かれつつあるのかもしれない。(孤城って響き、一気に寂しくなるからこれっきしにしよう・・・)
朝、目覚めるたびに葉っぱが伸びているパキラに、ブックオフには送られずに留まった選りすぐりの本たち。カプリ島で買ったレモンリキュールにローマで一目惚れした置き時計。ソファに座ったとき視界に入る場所には、愛着のあるものしかおいていない。
新入りのスピーカーがまた、我が家でのQOLを驚くほどに急上昇させてくれた。本当はBOSEの4万円ほどするスピーカーが欲しかったのだけれど、予算の都合上、JBLの8千円くらいのものに決めた。けれどこれで十分満足。部屋全体にやさしく響き渡るスピーカーがたったひとつあるだけで、こんなにも楽しい時間が増えるのならば安い買い物だ。
身支度をするとき、家に帰ってきたとき、もはや「おはよう」「おかえり」の合図のようにノラ・ジョーンズの「Don't know why」をかければ瞬く間に心はリラックスするし、グレン・ミラーをちょっと大きめに流しながら料理をしていると、それがたとえわたしによるわたしのための晩餐だったとしても、得も言われぬ充足感に包まれる。
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大好きなクナイプのバスソルトを入れた、ぬるめのお風呂に浸かって、火照った体のまま江國香織さんのエッセイを読んでいる時間なんかもたまらなく幸せ。
昨日までの三連休に、ゆっくりと味わうようにもったいぶって読んだ「とるにたらないものもの」は、もし長旅に出るとしたら必ず持って行きたい一冊にランクインした。どういうわけか、買ってから半年ほど積ん読してしまったのだけれど、江國香織さんのやさしい視点と甘やかな文章は、夏風邪をこじらせて外出も楽しめない連休に泣けるほどぴったりだった。本にはやっぱり、“読みどき”がある。
恋人とフレンチトーストを食べる瞬間を、「幸福で殴り倒すような振る舞い」と言ったり、季節の移ろいについて、「人々が日々どんなトラブルを抱え、どんなに右往左往していようと、些事些事、とばかりに季節はちゃんと移ろう」と言ったり・・・。江國さん大好き・・・!と何度も心臓がきゅーっと鳴りながら、時ににやけながら、幾つものページの端っこを折ってしまった。
すべては書き切れないけれど、旅に出るたび決まってスタバを探し惑い、家に帰れば「我が家ほど最高な宿はない」と感じるわたしにとって、全面的に共感だったこの一節だけご紹介。
文化も風景も違う海外に好んででかけて、違えば違うだけ新鮮だったりおもしろかったりするように感じるくせに、帰りに大きな街の空港に着き、トイレやらコーヒーショップやらがどーんと充実しているのを見るとほっとする。そういう日常的な安心が好きなら旅になんんかでるなよ、と言いたい気持ちが私の中にすこしあるので、大きな街の空港でほっとしてしまうことが、いつも情けない。勝手のわからない場所に行きたく出てきたのに、勝手のわかる場所についてほっとするなんておかしい、と思う。
ひとり暮らしを続ける限り、どうしようもなく寂しい夜とは永久に縁を切れないと思うけれど、たまに友達を招いて、自分で選び集めた愛するものものに囲まれた今の生活も悪くないと思う。
どうかこれからも、とるにたらないような、些細な幸せに敏感でありたい。
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