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アンパンマンの遺書を読んでみた

いつものように本屋へ足を運び、どんな本があるか物色していた。すると、ある強烈なパンチラインが僕の目に飛び込んできた。
             
            「アンパンマンの遺書

こんな本、気になるに決まっているではないか。ということで即購入して読んでみた。
すると文字通り、アンパンマンの作者であるやなせたかし先生が”遺書”という形式で書いた本で(出版されたのは亡くなる20年前)、自分の人生を振り返るエッセイ集のようなものなのだけれど、これがユーモアたっぷりで、戦前戦後の様子なんかも知れて面白い。また、中高時代はじめ、今のところあまり人生が上手くいっていない僕のような人間は「自分もまだまだこれからかも」という風に思えるほど励まされる内容で、ぐっと引き込まれる。


なにより意外だったのは、やなせ先生がとにかく謙虚なこと。まあ確かに、考えてみれば、人間ができた人は往々にして謙虚な方が多いし、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、この本を読む前は、勝手な思い込みで、「アンパンマンという平和な世界観を持つアニメを作っているのだから、きっと性格も明るくて穏やかな人柄なんだろう」なんて思ってた。全然違った。

特に、本文の随所に自虐ネタが盛り込まれていて、自分のことを「容貌風姿は平均点以下」「地獄の軟弱マン」「だらしない性質」と、これでもかってくらい卑下してる。「自分のことを悪く言い過ぎでは?」と笑ってしまうくらい、とてもアンパンマンの生みの親とは思えないようなブラックな一面を垣間見たような気がした。
ただ、
     ”何のために生まれて 何をして生きるのか
        分からないまま終わる そんなのは嫌だ ”

という歌詞を思い出してみると、確かにそんなことも言うかもしれないなあとも思う。しかし改めて見ても深い歌詞だなこれ..(この曲について触れている箇所もあります)

また経歴も紆余曲折で、デザイナー、新聞記者、舞台作家など、実に様々な経験をしてらっしゃることを初めて知った。
そう、アンパンマンは決してメルヘンでハッピーな思考からできたのではなく、やなせたかしという人間の、苦悩と、挫折によって生み出されたダークヒーローなのだ。顔にアンパンを携えた半人間でも、ジャムおじさんとバタ子に大量生産されているだけの単純な存在でもないのだ。

そんな中、最も印象に残った箇所がある。
それは、戦争が終わり、故郷の高知で出会った奥さんと結婚した場面での一文。

何とか餓死することもなく、まあ、恋愛結婚もどきの伴侶を得て、僕は結婚してからが青春のような気がする。

岩波現代文庫『アンパンマンの遺書』

これは、中高と自称進学校に進み、友達もろくにできず、逆転ホームランを打ってやると意気込んで入った大学には2年通えない挙句、卒業という二文字が着々と迫ってきている、まるで青春というものを体験したことのないみじめな僕の心に、これ以上ない救いの言葉として、深く、深ーくつき刺さった。
正直、22歳にもなって「僕の青春はまだか」なんて、みっともないなーとも思う。同い年の中には、もう子供がいる人もいるだろうし、ばりばり働いている人もいるのだから、いい加減青春ゾンビ(青春を追い求め彷徨う者のこと)なんて卒業した方がいいよなとも思う。それでも、人間なんて、10人いれば10通り、100人いれば100通りの人生なわけで、長さも、進むペースも違うという当たり前のことを再認識させてくれたし、「ああそうか、もしかしたら、まだ僕の青春は始まってすらいないのかもしれない。」
と思わせてくれた。
さすが、アンパンマン。


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