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#2003年の作家たち
そんな日のアーカイブ 2003年の作家たち 2 高橋源一郎
まことに失礼なことながらこのかたを見るたびに「そらまめに似ている」と思ってしまう。
そらまめ、あたし自身はすこぶる好物なのである。茹でてみれば窮屈な皮のなかはホクホクとまことに心安らかなるあじわいではないかとひとり思っている。
その類似は高橋氏の顔の輪郭からの連想なのだが、このかたもけっこう分厚い皮を身に着けておられるような気もする。つまりシャイなおかたである。まあ、一筋縄ではいかない感じとい
そんな日のアーカイブ 2003年の作家たち 1 古井由吉
2003年7/28〜8/2まで、東京・有楽町よみうりホールで開かれた日本近代文学館主催の公開講座「第40回夏の文学教室」に参加し「『東京』をめぐる物語」というテーマで、18人の名高い講師の語りを聞きました。
関礼子・古井由吉・高橋源一郎
佐藤忠男・久世光彦・逢坂剛
半藤一利・今橋映子・島田雅彦
長部日出男・ねじめ正一・伊集院静
浅田次郎・堀江敏幸・藤田宣永
藤原伊織・川本三郎・荒川洋治
という
そんな日のアーカイブ 13 2003年の作家 藤原伊織
前日の藤田宣永さんの講演時、藤原伊織さんが会場のよみうりホールに来ておられたのだそうだ。それを聞いてなんとまあ、用意周到なお方だろうと驚いたのだが、藤原さんがほんの少し前まで広告代理店の部長さんをされていた、と知ればなるほどこれがマーケティングというものか、と胸落ちしたりする。
『テロリストのパラソル』という小説で、史上初めて江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞された藤原さんは逢坂剛さんと同じく広告
そんな日のアーカイブ 12 2003年の作家 藤田宣永
今は著名な作家も、かつては、その先を行く作家に憧れた文学少年であった。阿刀田高さんは中島敦を尊敬し、椎名誠さんは井上靖に傾倒した。
長部日出男さんが太宰に憧れたように、浅田次郎さんが三島を好きなように、藤田宣永さんは吉行淳之介の大ファンであった。
藤田氏は最初吉行淳之介という名前をカッコイイと感じ、その作品を読み進み、彼のような小説を書いてみたいと思ったのだった。
恋愛小説の名手だと言われる
そんな日のアーカイブ 11 2003年の作家 堀江敏幸
困りました。いやあ、どうもいけません。当時、明治大学のフランス文学の助教授である堀江敏幸さんとおっしゃるかたは、以前に一度BSの「週刊ブックレビュー」で拝顔いたしました。1964年生まれで、お若いのに過不足ない存在感があり、実に落ち着いたはなしぶりであるなあ、と感じ入った記憶もございます。
95年「郊外へ」で作家デビューされ、「おぱらばん」で三島由紀夫賞、「熊の敷石」で芥川賞、「スタンス・ドット
そんな日のアーカイブ 10 2003年の作家 浅田次郎
1999年の文学学校では、浅田さんは着物姿であらわれ、当時大ヒットした「鉄道屋」の本や映画のお話をされたな、と思い出す。
その年は「文学のなかの友人・師弟」という全体のテーマだったのだが、とりとめなくご自身の「よいおはなし」が続いたような記憶がある。今回のお話のなかでも高倉健さんといっしょにカラオケに行って「唐獅子牡丹」を目の前で聞いた話をされていた。
こんなことを言ってはまことに失礼なのかも
そんな日のアーカイブ 9 2003年の作家 伊集院静
ああ、正直に申しましょう。その日、グレーっぽいジャケットをさりげなく着た伊集院さんが現れた時、あたしはいつもより力をこめて拍手をしてしまいました。なんというか、我ながらミーハーでこまったものです。
伊集院さんは今は亡き夏目雅子さんのご主人である。その関係で、テレビのワイドショウなどでよくお見かけしていた。在りし日の若き夏目さんが「どんなひとですか?」という質問に
「薔薇や憂鬱なんていう難しい漢字
そんな日のアーカイブ 8 2003年の作家 ねじめ正一
第101回の直木賞作家であるねじめ正一さんは本名もねじめしょういちさんだが「祢寝正一」という字を書くそうだ。へー、そんな字なんだあ、と驚く。どうもそうとは読めない字だ。そうか、「ひらがな」書きの苗字は、決して奇をてらったものではなく、煩雑さを避けた一種のご親切だったんだなあと気づく。
ワイドショウなどのコメンテーターとしてお見かけする時はいつも「燃えよドラゴン」の敵ボスのようなお洋服をお召しだっ
そんな日のアーカイブ 8 2003年の作家 島田雅彦
言い忘れたが会場の「よみうりホール」は、1100人収容できる大きなスペースで2階席もある。この「夏の文学学校」の聴衆は、時にお若い方や異国のかたもお見かけするがほどんどが中高年であり、ご婦人が多い。まあ、わたしもそのひとりである。
しかしながら、島田氏が講演する日は少々雰囲気を異にする。若いご婦人の姿が目に見えて増えているのである。ミーハーなファンというふうなお嬢ちゃまもいるが、どこか思いつめた
そんな日のアーカイブ 6 2003年の作家 半藤一利
半藤さんは夏目漱石の義理の孫である。漱石の長女筆子さんの娘さんと結婚して夏目一族のひととなった。
世の中にはそういうひともいる。知り合いに田沼意次の直系のひとの嫁さんがいた。日常はどうってことないけど、そういう直系の会というのがあって武田だの上杉だの歴史上の有名人の名が並んでいてそれはなかなかおもしろいものよ、とか言っていた。
そこに生まれつくことは選べないが、そういうひとと添うことは意思が必
そんな日のアーカイブ 5 2003年の作家 逢坂剛
リチャード・ドレイファスばりの体型を砂色のスーツに包んで現れた逢坂さんは「私と神保町」という演題で話された。
濃い飴色のやや太目の縁の眼鏡の奥のよく動く瞳を会場のあちこち満遍なく滑らせながら、さて、なにを話されたのだったろう。とてもとても面白くて、くすくす笑ったという記憶はあるのだが、なにがどのように面白かったのかと思い出そうとして、どうにもおぼつかなくて頭を捻っている。
高校時代に学校で逢坂
そんな日のアーカイブ 4 2003年の作家 久世光彦
このかたの講演を聴くのは二度目だった。前にも思ったのだが、このかたが細い声で語りながらその合間にみせる表情は温泉につかって「ほう」と短く溜め息をついている品のよい老婦人を思い起こさせる。
幾山河越えてきた長い長い時の流れのなかで、胸のうちにしまいこんだだれにもいえない思いをほんの少しだけ吐き出すようなそんな風情なのだ。
「体がヨロヨロで」と嘆かれる表情もそんなふうである。その口元があやしく老婦
そんな日のアーカイブ 3 2003年の評論家 佐藤忠雄
もの知らずのあたしはこの佐藤さんが有名な映画評論家であることを知らなかった。
品があっておしゃれで都会的で、垢抜けした小粋なおじさまであるなあと思って眺めていたら、隣席のおばさんが「そうそう、このひと有名な評論家なのよ。知ってるわ」と声高に得意げにその隣のおばさんに教えてる声がした。つまりそういうかたなのだ。
そのひとが「小津映画のなかの東京」を軽やかな口調で語る。そのてらいのない軽やかさが