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生活

 この季節、札幌の地下歩道にはそれはそれはたくさんの人がそれぞれの歩みを進めている。おしゃべりをしながら歩く人、人をかき分けるように足早に歩く人 壁に貼られた広告に目を向けながら歩く人、スマートフォンをいじりながら歩く人。みんな、私たちの真逆の方に向かって歩いていく。
「この人らどこいくん?」
「わからん。どこいくん?」
 私たちはそんな会話をして、くすくすと笑っていた。

 最近、思うように生きられない

 些細なことが心を蝕む

 苦しいことの理由が見当たらない

 どこかに置いてきてしまったみたい

 自分のことがわからなくなってきた

 ただ生きることが苦しい

 私を煩わせる全てのことから遠ざかりたい

 苦しい。消えたい。死にたい
 
 死ねない

 この先何度この思いを繰り返すのか

 目に見える未来がどす黒い

 それにも関わらず、生きることに縋り付く

 醜い

 ふとしたことで心が軽くなった
 
 仕事がうまくいった。テストで良い点を取った。美味しいものを食べた。パチンコで買った。物欲を満たした。お酒を飲んだ。映画で感動した。素敵な景色を見た。褒められた

 けどそんなことは一瞬のことだった

 奥深くにいる私は何も変わらない

 変わらないことを知っている

 背負いながら、縋りながら、求めながら生きている

 渇き

 こんなこと、誰もが鼻で笑うくらいに当たり前のことだ

 当たり前過ぎて、誰もが多くを語らない

 ただのよくある話

 誰も語らない。語ろうとしない

 けれど、誰もが何かを抱えている

 未だにその重荷を降ろせないでいる

 誰かに伝えるべきでもないけれど

 忘れられない思い出や

 拭えない悲しみや

 眠れない夜があった

 それを思うと、

 さっきすれ違った人、電車で隣に座っている人、画面の向こうの有名人、SNSでみかけた名も知らぬ人、会わなくなった友達、苦手な人、上司、両親、後輩、偉人、先祖

 その誰もが抱えてきた痛みを感じる

 私も同じように痛みを抱えているからそれがわかる

 慈しみ

 いつもと変わらない日に

 いつも変わらない苦しみの中に差した

 一筋の優しさ

 みんな生きている

 そしていつか、

 私が生きていることを

 誰かにも感じ取って欲しい

 私は今日も生きている

 でもこれはただの、当たり前の話

 あのときと同じ地下歩道を今は1人で歩いている。たくさんの人とすれ違う。それぞれに帰る場所がある。他人にはわからないドラマがある。家族がいる。友人がいる。恋人がいる。
 誰かと目が合う。
「どこへ行くんですか」
私は心の中で思う。
「どこへ行くんですか」
その人もそう思っていてくれていたら、いいなと私は思った。

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