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瓶詰の地獄

短編の傑作の一つに、夢野久作の『瓶詰地獄』がある。
青空文庫で読めるので、まだの方がいらっしゃったら是非読んで頂きたいが、この作品は3つの瓶の中に詰められた手紙で構成されている。

この瓶は『メッセージ・イン・ア・ボトル』ミーツ『キャスト・アウェイ』的なものなのだが、要は無人島に漂流した兄妹が、瓶の中に手紙を詰めて、御父様御母様若しくは他の誰かに助けの手紙を書いているわけだが、その漂着した3つの手紙は、時を隔てたもので、物語は反転していく『メメント』or『アレックス』的な構造になっている。

救いの手紙は、幼い兄妹の認めたものであるが、2枚目、3枚目は救いの手紙ではなく、告解の手紙と遺書になっている。兄妹だけの無人の島で、二人は美しく成長し、互いを求めて咎人になる、たったそれだけの地獄が3つの瓶に詰められている。
最後に純粋な兄妹の手紙を持ってくる辺り、夢野久作は変態である。

無人島で野生、本能が覚醒するという作品ならば、ゴールディングの『蝿の王』(シャウアプフの能力ではない)がとてつもない作品である。
これはイギリスの少年たちの乗る飛行機が墜落し、無人島に漂着。そこで生きていくために、無垢な少年たちは『ほら貝を吹くこと』をたった一つの規律として共同体を築く。然し、人間が対立し、憎しみ合い、争うのは摂理である。最終的には破滅へと進んでいくわけだが(ラストは映画版『ミスト』のようである)、これはイノセントが殺される小説である。

イノセントが殺される。『幽遊白書』の樹に言わせれば、「コウノトリを信じている女の子にポルノを見せる下卑た悦び」的なもので、無垢が死んだ時、真の意味で人間に成ってしまう、要は堕天であり、悲劇である。

『瓶詰地獄』は丸尾末広先生が漫画化していて、これは丸尾先生の美しい筆致で描かれた絵物語で、特に3枚目の手紙の1枚絵は哀しみと美しさが同居していて、まるでお月さまの如し妖しい輝き(下の絵ではない)。

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結局、人間というのは、そういうイノセントが破壊されることに、美しさを感じてしまうおぞましい生き物なのかもしれない。
『HUNTER×HUNTER』のツェリードニヒもこのように言っていた。

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ツェリードニヒは完全なサイコパスなので例として適当ではないが、『瓶詰地獄』の兄妹もまた、極限状態下で生み出す総合芸術の犠牲となってしまったのかもしれない。
そして、『HUNTER×HUNTER』はもう2年半休載している……。

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