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新井英樹のSM漫画『SPUNK』を読む

新井英樹の『SPUNK』を書店で購入して読む。

今年の6月に1巻、2巻と同時発売された新作である。

公式サイトから、試し読みができる。

新井英樹の漫画はほぼすべて読んでいる。私が一番好きなのは、『キーチ!!』と『キーチVS』、『なぎさにて』、それから『ザ・ワールド・イズ・マイン』。


『スキャッター/あなたがここにいてほしい』はナルトが射精で敵を撃ち殺しまくるクライマックスが凄まじいウルトラアクションの様相を呈しており、まぁ、是非読んでほしいのだが、基本的にはノイズだらけの漫画である。
ノイズで出来ていると言っても過言ではない。


情報量の多さ、という意味では新井英樹の漫画は異常に詰め込まれているし、それらは一見何か意味のあるようで、その実物語には関連せず、然しテーマに触れる。

圧倒的な熱量はデビュー作から変わらず、『宮本から君へ』を通して『ボーイズ・オン・ザ・ラン』という私生児が産まれたり、然し、その子供は絶妙に世間に受けて売れるが、新井英樹の漫画は売れない。
花沢健吾も、新井英樹も、どちらも映画好きであるし、然し新井英樹はより文学性を重んじている。

所謂トラヴィス・ビックル的な『タクシードライバー』に数多のゾンビ映画などの濾過してからの性の匂い、それも甘い匂いを上手く纏わせた花沢漫画とは違い、梶井基次郎や三島由紀夫や谷崎潤一郎や寺山修司が通底している新井英樹の漫画は、より精液の匂いが充満しているし、或いはラブジュース的な、男女交えたエキスで彩られたような毒々しい色彩がある。
どちらが毒かと言えばそれは新井英樹だろうが、然し、その新井英樹の漫画は本当には実に優しいのだ。

『SPUNK』はSM漫画である。SMの女王としてデビューする夏菜と冬子の物語であるが、そこには様々な世間一般の定義から外れた人物たちが登場して、成立しない会話(或いは高度なキャッチボール過ぎて、読み手には掴ませない会話)が横溢している。
SとM、女王様と奴隷。今作には、様々な男たちが、女王様に罵ってもらおうと、彼女たちの働く店に訪れるのだが、そこでは特殊な関係性故に産まれる連帯感に満ちていて、そこで夏菜は自分のスキを、冬子は『自分ごとき』からの脱却の経験を重ねていく。

まだ2巻である。基本的には、新井英樹の漫画は読んでいても、終わりが来る最後までそのテーマ性や目的の全体像がつかめない。ただ、ドライヴに乗るだけである。
今作も、どこが終着点なのかは現時点ではわからない。
然し、何時の時も、大抵は人と人、相棒とのぶつかり合いで魂が燃え尽きるほどヒートしていくのが新井英樹の漫画である。
今作は、2巻で夏菜と冬子が互いの関係性において、喧嘩よろしくディスカッションを重ねていくシーンで終わるが、基本的には、人間とは相手がいないと自分の姿が見えないのである。相手が居なくても自分が見えるのは、それは本当に孤独なときだけだ。

新井英樹氏が様々な経験の果に、それを漫画に落とし込んで芸術活動をしている、その姿勢というのは、普通の漫画家には出来ないことだろう。
まず、普通の漫画ではない。いつだって、刺激に溢れているし、何気ない、意味不明な会話の中に、いつも読者を刺し貫く言葉が置かれている。

『プレイの基本は相手の目を見てチューニング!!
もう知ってる わかってるて 
人間…たか括って胡座かいてたらしっぺ返し食う 必ず
それが嫌やったら 腹…括りや』

『SPUNK』2巻 お説教の言葉


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