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おおかみこどもの怪談


台風が来ると心騒ぐのは、なぜだろうか。

2012年公開の細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』では、
物語の最後に台風を配置していた。

細田守監督は相米慎二の大ファンで『台風クラブ』に影響を受けている。
台風は思春期の感情のメタファーで、台風クラブでは嵐の中はしゃぎ回る少年少女の姿が鮮烈である。

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『おおかみこどもの雨と雪』でも、雪は誰もいない教室でクラスメイトの草平と二人、グラウンドに吹きすさぶ台風を窓から眺める。

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ここで見られるカーテン越しの告白は目を瞠るものがあるが、まぁ、これをこそこの作品で描きたかったのではないかと思えるほどに、叙情的なシーンである。そして、このシーンを見ていると、今作の脚本家でもある奥寺佐渡子氏の1995年の脚本作、『学校の怪談』が思い出される。

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学校の怪談は、廃校舎に迷い込んだ少年少女と一人の教師小向伸一(野村宏伸)の恐怖体験がノスタルジックなジュブナイルとして描かれる作品だ。

有名所の花子さんやテケテケ、口裂け女などが勢揃いする。
段々と怪異が進み、伸一も事態を把握した後は、校舎からの脱出を図るわけだが、今作は少年少女の物語であると同時に、教師の伸一も過去との決別、乃至は自己のトラウマと向き合うことを迫られる。

伸一は昔、クラスメイトがいじめられていたのに嫌々ながらも加担していて、その女の子を家庭科室に閉じ込めてしまう。

一人、不安になった伸一は家庭科室へと戻るわけだが、教室の窓が空いていて、少女がそこから飛び降りたことを知る。
死んだかと思っていたが、生きていて、その子は転校してしまった。

このシーン、少年時代の伸一がたなびくカーテンの前で立ちすくむのが、
例の『おおかみこどもの雨と雪』を思い出してならない。
シーケンスは違うけれども、カーテンを使った見事な演出である。
そして、どちらも夏の物語であり、台風、或いは同様の嵐の中をいく。
廃校舎から脱出するためには、渦巻く暗黒空間に飛び込まなければならない。伸一は、クラスメイトが飛び降りたことを思い出して、自らも飛び込むのだ。

そして子どもたちは彼の後について飛び込んでいく。

伸一の子供時代からの脱却、少年少女の恋、友達の出来ない少女に出来る友人など、様々な要素が見事に描かれている。

学校の怪談とは、少年少女の噂話から始まる、都市伝説である。
その都市伝説に、大人は登場しても、彼らの視線はない。
けれども、このシリーズには大人たちが紛れ込む。
彼らは大人だが、まだ弱い少年少女のままなのである。

彼らは、いつまでも子供のままの痛みを抱えた観客たちの投影なのである。

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