見出し画像

言葉と文字

『チ。地球の運動について』の3巻と4巻を読む。

画像1

この作品は天動説が信じられていた時代、地動説を唱える人々の話だが、
この3巻では、そのリレーの中に加わる一人の女性が描かれる。
この物語はフィクションだが、女性がまだ研究者としてはハナから勘定に数えられない、寧ろ、それに関わることすら畏れ多いと許されない時代である。

その中で、一人の優秀な女性が自身の心のままに研究に手を貸すという流れなのだが、このキャラクターが、仲間になる一人に、文字が読めるとはどんな気持ちか尋ねられるシーンがある。
彼女は、文字は奇蹟だと言う。文字によって、遥か過去の事実を識り、感情までも共有できると。

これは正しくそのとおりで、一番の芸術は言葉そのものであり、それを伝える文字こそが芸術である。
それは、宇宙が端から構築していたシステムに等しい、人間が作り出した新しいシステムである。言葉によって人は月にまで到達した。
言葉、そしてそれを顕す文字は、神を作り、国を作り、愛を囁き、法となって、人間を人間を足らしめている。人は、様々な言葉で、一昔前は、まだ字を読むことの出来ない世代もあったが、現在の日本の識字率は99%である。
日本人は最も美しい言葉、そして文字を体得している素晴らしい環境にある。誰もが芸術を喋っているのだ。
然し、文字の世界は奥が深く、使いこなそうと思えば、それはとてつもなく難しいことだ。
人間は総体であるから、数千億の命を持って、今、神に届こうとしているのかもしれない。

言葉を表した漫画に、『シュトヘル』という漫画がある。この作品は13世紀の蒙古を舞台に、チンギス・カンに滅ぼされていく西夏の文字を守ろうと、西夏文字が書かれた玉音同を守りながら、文字を残す旅を続ける西夏の少年と女戦士の物語である。

画像2

画像3

西夏文字は歴史から消えていた文字だが、それが20世紀の研究で再び息を吹き返した。言葉や文字は死なないのである。然し、一時的にはとはいえ、日本語も、何時しか消えてしまうかもしれない。
そのようなことは絵空事ではなく、生まれた時から祝福されていた言葉を話せなくなる地獄は、この世にあるのだ。

画像4

だから、できるだけ文章を残そうと思う。
つまらないことも、美しいことも、全部、ここにあったことを知らせる術は、いつだって言葉と文字である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?