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聖夜

青い雨が地面に散らばる様に、夜を思い出した。
私には、夜天こそが本当である。
ソファで眠たい目を軽く擦ると、きらきらと、息子が笑いながら握りしめて見せてきたのは、妻に贈ったラピスラズリのネックレスだった。
どこから持ってきたものか。
ラピスラズリの鉱石は、金を散りばめた夜天そのもので、私はそれを持つ息子に御仏を見た。
ガンジス川の真砂(まさご)よりあまたおわする仏たち。
九条武子の『聖夜』を諳んじながら、息子からネックレスを受け取った。
息子は、たどたどしい言葉で、最近出来たという友達について話してくれる。もう、兄になるのだ。
視線を上げると、家族旅行で行った軽井沢の教会の十字架を背に、はにかむ妻と視線があった。私は、はにかみ返した。
息子にネックレスを返してやる。と、するりと金鎖がさらさら滑り落ちて、
ラピスラズリは床に落ちると砕けて、一面、きらきらとした熱国の夜空がひろがった。

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