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ブラックなハイビスカスはお高い


今一番気になっている本は、丸山健二の『ブラック・ハイビスカス』である。
丸山健二は芥川賞最年少受賞ホルダーである(女性には綿矢りさがいる)。23歳で芥川賞を受賞した。
その後は名だたる賞に候補になるも辞退を続けて、長野県で執筆を続けている。中央とは完全に離れた作家である。

その丸山健二氏の集大成ともいえるのが『ブラック・ハイビスカス』であって、これは、氏の個人出版社から発売されたものである。
私家版、ではないが、限りなく自費出版に近い。

本は売れない。優れた本ですら、売れない。いや、優れているから売れないこともあるだろう。

売れないのには、様々な要因があると思われるが、まず、①難解なものは売れない。
多くの人はそこまで本を読まないし、買うとしても、慰安として買っている場合が多い。慰安を与えるには、共感性、或いは娯楽性が必要となる。つまりはエンターテイメント小説、通俗小説、或いは、ライトノベルだろう。また、勉強となる自己啓発、ビジネス書、参考書も買う人は多いだろう。
100万人が買う本は、100万人に理解できるほどの本であり(無論、そのままではないが)、
いいものは売れる、いいものは皆良さがわかる、というのは完全な誤謬であり、思考停止に他ならない。
いい人はすぐに死ぬ、それが何故わからないのか。悪党だけが生き残るのである。

それから、②無名の人のものも売れない。
人はブランドや世間の話題に弱いため、自身の資産を差し出すからには、それなりの担保が必要になる。そうなると、他人も評価し、ある程度の面白みが保証されていないと売れない。こういう売れていないもの、売れそうなものを買うのは物好きか、好事家、或いは商売人であり、まぁ、こういう人は審美眼がある場合が多い。

で、③高額な物は売れない。生活には兎角金がかかる。月々出ていく様々なお金の中で、娯楽費は最後にまわされる。1冊1,000円の本でも、人は購入を真剣に悩む。
当たり前である。1,000円は大金だ。そして、本は否応なく時間をも奪うから、糞みたいな本だったら、えらいことである(然し、悲しいかな、ベストセラーというのは先の条件を見るに糞の本である)。

そこで、この『ブラック・ハイビスカス』に立ち戻ると、
①難解なものは売れない⇒難解
②無名の人は売れない⇒文壇では有名ではあるが、一般的には他作家と比べ知名度が低い。
③高額なものは売れない⇒お代は全4冊100,000円になります。

ビンゴである。100,000円の本を買うのは、大変な勇気がいるだろう。100,000円というのは、ウルトラ高額であるから。
100,000円あれば、旅行も行けるし、高額の料理も楽しめる。欲しかった服も買えるし、欲しかった家具も買える。色々な選択肢が浮かぶ。

100,000円の本?冗談だろう(『バガボンド』の秀作風)

けれども、本の装丁を見てみよう。

下記に紹介サイトを引用させて頂いているが、大変に美しい装丁である。

『ブラック・ハイビスカス』は手製の山羊革装、そして限定50セットの限定本である。

なんという、美しい本なのだろうかと思う。
思想性が相当に強いために、人を選ぶ作者だ(そもそも、値段でも人を選ぶというか、私なんて選ばれてもいないわけだ)。
然し、やはり紙の本としての美しさには陶酔がある。

電子書籍は、漫画においては既に売上は紙の本を凌駕していて、UI・UXにおいて、非常に優れたものに日々進化しており、利便性が高い。が、紙の本の持つ神聖にはまだ至っていないと思われる(孰れはその領域に踏み込むのだろうが)。
私も今、新しく3冊を作る予定で(あくまでも自己満足。自己を満足させられずして、人様はなお喜んでくれない!)、原稿をせっせと集めている。

美しい本を作りたい。
『世界は、一冊の美しい書物に近づくために出来ている』とは、
詩人のステファヌ・マラルメの言葉だが、無論、私にはマラルメのような天才はないので、そこまでの大仰なことは出来ない。

けれども、私の思想を1冊の書物にしておくことは、出来るのだから、それは続けたいと思っている。

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まぁ、『ブラック・ハイビスカス』は孰れは手にしたいものだ。
今、お財布には……悲しくなるので、やめておこう。

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