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シルビアのいる街で

『シルビアのいる街で』は、2010年に公開された映画である。
私は当時社会人に成り立てで、この映画をたしか京都みなみ会館や、京都シネマの何れかで観たのだが、おそらくみなみ会館の方だろうか…。

当時は、映画を年間100本くらいは劇場で見て、ビデオやDVDで200本前後観ていた。なので、計300本くらい観ていたが、そのうちの250本は粗筋すら忘れてしまっているが、ときどき不意に思い出す。

『シルビアのいる街で』も、そんな映画の1本である。そして、この映画には粗筋はない。いや、あるのだが、どちらかというと予告編でも言われているように、シルビアという美しい女性を見た青年が彼を探して街を彷徨い、そして彼の心情もまたそれに交差していくという、詩的な作品である。
まぁ、男が延々と知らない女性を追いかける構成のため、え?ストーカー映画?と思うかもしれないが、まぁ、ストーカー映画である。
然し、ストーカーという定義も難しいもので、この映画くらいなら認定しないであげてほしい次第。

確か、この映画の表現はすげぇ、的な評論を読んで、観たくなって映画館まで行ったのである。
京都みなみ会館では園子温の『愛のむきだし』を観たりしていたが、あそこはアクセスが悪いのであまり行かなかった。以前、友人と『マーターズ』という、まぁ、普通の感覚の人には到底勧められない映画を一緒にそこで観て、友人は映画の感想を言い合う折に、相当に激怒していた。残酷な映画なのである……。
今は旧館は取り壊されて、数年前に新館が出来たが、未だに足を運べていない。それ以前に、今年はまだ『ザ・バットマン』しか観ていない……(『すずめの戸締まり』は映画館で観る予定)。然し、映画の評論は新作は必ずチェックして、すでに観た気になっているので質が悪いのが私という人間である。

で、『シルビアのいる街で』だが、舞台はフランスのストラスブールである。
ここに名無しの主人公である青年が物思いに耽りながら街を見つめていたり、歩いていたりする。そして、ふと見かけた美しい女性が、昔会ったことのあるシルビアでは?と取り憑かれたように延々と彼女を探して、ストラスブールを彷徨うという話である。

台詞、音楽が極端になく、環境音、街の喧騒と、市井の人々の動きだけで映画が誂えられている。
まぁ、かなり変な映画であって、男が女性を探し回るのに、1時間半付き合わされる映画である。
然し、舞台はフランスのストラスブール、淡い色合いの街や人々、太陽のやわらかいきらめき、黄土色の石畳、美男美女、とその画面の美しさたるや、である。
わかりやすい物語の起承転結はないが、然し、美しさを愛でる映画だと思えば問題はない。そして、催眠効果もある。

私も一度だけ、ニューヨークに留学していた際に、電車で美しい女性に心惹かれたことがある。リアルシルビアのいる街で、である。
その人はスラブ系で、ブルーのストライプのシャツに紺色の半ズボンを履いていた。黒髪の、陶器のごとく白い肌をしていた。
結局、私は英語が下手くそだし、度胸もないので声をかけることは出来ず、彼女は電車を降りてしまったが……。
今でも、時折思い出すのである。

人は誰しもが、どこかで、例えばカフェで、例えば電車で、例えば街角で、様々な場所で、心を惹かれる異性に出会う瞬間があるはずである。
そこから物語が発展することは、映画や小説でもない限りはなかなかないことだが、然し、意外と覚えているものだ。

そして、そういう対象になれる人間というのは限られていて、多くの人にそのように思われているのだろう。つまりは、男女ともに美しいミューズであり、芸術家の目に触れたのならば、作品にまで昇華される、そんな人たちである。


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