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インフィニティ・プールという地獄

ブランドン・クローネンバーグの監督第3作『インフィニティ・プール』を鑑賞。

久方ぶりのMOVIX京都にて。多分、ガチで5年以上は来ていないような……。
最近、IMAXで映画を観ることに慣れてきており、通常のシネマがこれほど小さく、音も貧弱ということに、ある種の衝撃を覚えてしまった。
まぁ、MOVIXも出来てから早25年ほど立ち、最早老舗の感もある。

そして、IMAXづいているだけではなく、騎乗位づいてもいるのである。
私は今年、4本映画館で鑑賞したのだが、そのうち3本が騎乗位のシーンが出てくるのである。『ボーはおそれている』、『オッペンハイマー』、そして、『インフィニティ・プール』。
一体どういうことなのだろうか。「事とは重なるものですね」、という、ノヴの言葉を反芻しながら、私は鑑賞を続ける(意味が違う)。

さて、インフィニティプール、とは、あの、インスタ映えしそうな、プールと海面(或いは湖面)を水平につくり、縁などを取らず、境目がないかのように、無限に続くかのような構造のプールのことである。
インフィニティプールの生みの親は建築家のジェフリー・バワであり、彼のリゾートは別の記事で草したので読んで頂けたら幸いだ。

で、今作。まさにタイトル通り、無限地獄が永遠に続く、暗黒ムービーである。今作を観たときに感じた肌触りは、『マンディ/地獄のロード・ウォリアー』などに近い。

基本的にはガンガンネタバレしていく。

主人公の作家であるジェームズが妻のエムと、とある孤島のリゾートホテルでバカンスをしている。然し、ジェームズは6年間新作が書けない、書かない作家であり、閃きを求めてこの島にやってきており、妻は出版社の娘でお金持ち、即ちヒモである。
このジェームズ、アレクサンダー・スカルスガルドが演じているが、やっぱり親父に似ているな……、で、ジェームズ、自分のファンだという女性ガビと出会い、彼女の夫とともにお食事に。ガビに誘われて、ジェームズ夫妻はホテルから出て島のキレイなビーチでのんびり過ごす。そんなとき、立ちションしていたジェームズの背後からぬっと現れて、そのまま一物を掴んで手コキするガビ。ここでジェームズ、すぐにイッてしまう……。今思えば、ここがこの物語の主題なのかもしれない……。

で、帰りに泥酔したガビの夫アルヴァンに変わって、ボロ車を運転するジェームズ、ライトが壊れてて見えねーよ、とイジっていると、人が飛び出してきて撥ねてしまう!パニックになる4人。死体はもちろん顔面がグチャグチャであり(もうね、こういうグロが多すぎるタイプの映画ですね)、警察に連絡しましょう!というエムの言葉をガビは無視して、ホテルに戻るのよ!と強くジェームズ夫妻に促す。彼女曰く、この島の警察署は不衛生で、捕まえれば何されるかわからないし、妻も一緒に連行されて警官たちにレイプされるのだと……。そんなことありえるのかしら…?
で、そんなこんなですごすごホテルに戻る4人。憔悴したジェームズはそのまま寝てしまうが、翌日客室を強く叩くノックに起こされて、ドアを開けると警察が……。そのまま連行されていき、囚人服に着替えされられるジェームズ。怯えるジェームズの前に、刑事が現れて、淡々と昨日轢き殺されたのは島民で、この島で外国人がそのようなことをした場合は死刑になり、死刑は被害者の肉親の長男が行うと、そう告げた。え!死刑……そんにゃ……、となるジェームズに、刑事はそんなことになった外国人の救済方法として、多額の金を支払うことで、自らのクローンを作り出し、そのクローンを生贄として身代わりに死刑をさせることで救済できる、という、超展開の話を持ち出してきた。そしてヒモであるジェームズは、何が何だかわからないうちにサインをして(サインは怖いね、外国では気をつけよう)、自らのクローンを生成することを許可する……。

というのが前半部分で、ここからまぁ、ジェームズが全裸にされて型取りされたりでそのまま眠りに落ちて起きたらクローンが産まれてたり、クローンが死刑になったり、え、他の皆もこのシステム利用してる?とかなったり、麻薬をして乱交パーティーが始まったり、俺なのか、クローンなのか、え、これは最早クローンのクローンのクローンじゃね?とかなったり、まさにインフィニティプールのごとし、どこまでもどこまでも続く、そのような地獄が顕現する。
そして、始めにジェームズのクローンが轢き殺されたおっさんの息子に処刑されるシーン(執拗に、執拗にナイフで何度も何度も刺す、文字通り血の海だ)、ここで誰もが思うのは、殺されたのはクローンではなく、オリジナルではないのか?ということであり、それは作中でも言及される。ジェームズの他に、外国人観光客たちはこのクローンに至る行程を経験しているものが複数おり、彼らは、自らがクローンかオリジナルか、それに悩むこともなく、むしろ、死んでも復活できるぜ!やったー!というノリで、何度も罪を犯す。

そんな中、ガビは、ある種ジェームズの母親のように描かれて、この情けないヒモの書かない小説家を徹底的に苛め抜く。最初は手コキから始まるこの関係。ガビは、このクローンシステムを通じてジェームズのメンターのようになり、彼の弱さを徹底的に洗い出し、叩きのめす。ガビを演じるのはミア・ゴスなので眉毛がないが、やはりミア・ゴス、なんとも魅力的ではあるが、後半は度が過ぎてドン引き。

ジェームズはジェームズで可哀想すぎる上不憫この上ない扱いを延々とされて、私は、なんかつい最近、こんな映画を観たな…、と思ったら、『ボーは恐れている』だった。正しくジェームズもまた恐れており、そしてひどく不当な目にあい、同様に、母親的存在(ボーはモノホンの母だが)に苦しめられる。

つまりはアリ・アスター的なのである。今作も、リゾートホテルなのに、不穏な音楽が延々と流れていて、冒頭、そのリゾートホテルの全景やビーチなどを、三半規管を破壊するかのように斜め〜、逆向き〜てな感じで舐めるように撮り、異界へと導く、これはまさに『ミッドサマー』冒頭の運転する車が走るのを半回転させて撮ったショットに近しいものだ。

とにかく、魔界の映画である。

まぁ、少しオシャンティというか、狙い過ぎな感は否めないし、親父のクローネンバーグの本物のやばさと比べると背伸び感も感じるが、然し、まぁそれなりに珍妙な映画であり、妙に生理的な感じが、美しい俳優陣達からも汁気を感じさせて、これはこの監督の持つ、陰湿な作家性によるものなのかとも思えた。


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