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智慧(般若) ーPannaー

大乗仏教の修行法、六波羅蜜の最終段階。

三昧での経験により、いかなる楽しみも、必ず苦しみを孕んでいることを悟る。

そのことを知った魂は、智慧を獲得し、煩悩から出で離れることができる。


愛欲により、現世と来世が、不幸に変わる。
現世に於ては、快楽を求めて、苦悩を味わい、
来世に於いては、天界を求めて、地獄を味わう。

付き合う前には、下を向いて頬を赤らめて、
付き合い出したら、上を向いて眼を赤らめる。
どうして怒れるのか、愛した相手ではないのか。

老け出す前には、芳しい匂いを発しようと、
老け出した後には、悍しい臭いを発している。
どうして逃げるのか、愛した相手ではないのか。

すこし脱がせば、まだ見たいと思いながら、
すべてを脱がせば、もう見まいと思っている。
どうして嫌えるのか、愛した相手ではないのか。

小さな汚れには、悩ましい所と考えながら、
大いなる穢れには、煩わしい処と考えている。
どうして悩めるのか、愛した相手ではないのか。

床の中の肉とは、一緒に寝ようとするのに、
墓の中の骸骨とは、一緒に居ようとはしない。
どうして避けるのか、愛した相手ではないのか。

ある者は、安楽を得るために、財を貯めて、
財が貯まる頃には、安楽を感じられなくなる。
どうして、財を貯めることに、意味があるのか。

ある者は、妻子を守るために、職を求めて、
異国から帰るまで、何年間も妻子に会えない。
どうして、業に塗れることに、意味があるのか。

ある者は、名誉を得るために、戦に赴いて、
名が轟く日までは、奴隷のように扱かわれる。
どうして、名を高めることに、意味があるのか。

ある者は、地位を得るために、敵を貶めて、
敵を低めてばかりで、己を高められなくなる。
どうして、敵を貶めることに、意味があるのか。

いかなる楽しみにも、得る時に苦しみが生じる。
いかなる楽しみにも、守る時に苦しみが生じる。
いかなる楽しみにも、失う時に苦しみが生じる。

このように、楽の裏には、必ず、苦がある。
楽しみを究められると、苦しみに極められる。
欲が大きいほど、苦楽が大きく、総じて苦しい。

衆生が煩悩を求め、地獄に落ちる苦しみは、
菩薩が菩提を求めて、仏陀に至れる苦しみの、
実に百億倍である、どうして煩悩を求めるのか。

所有を捨て、世俗を離れて、無為に徹しよ。
我が身を道に委ねて、我が心を自然に任せる。
天命に委ねた生命、この身命、神々さえ得難い。

最初に、現世の出離を、繰り返し修習せよ。
その次に、自己と他者の平等性を、観察せよ。
全ての人は、私と等しい、苦と楽を有している。

さながら、右手も左手も、等しく愛すよう、
自分も、他人も、同じように愛すべきである。
最終的に、苦楽を全て味わう点で、等しいから。

入菩提行論



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