【ライティング小技】注意点に注意

ライティングにちょっと興味がある方や、文章力をもうちょっと上げたいな、と思っている方に向けた、ひとくちテクニックをご紹介します。

今回のテーマは「注意点」。

これから初めて、手順書/指導書/ノウハウもの/マニュアル/説明書を書く、という方に特にオススメします。

注意点に注意しよう

ノウハウやアドバイスを書く際は、以下の点を意識しましょう。

「注意しよう」だけじゃ、何も改善できない点に注意しよう。

「だから結局、どうすりゃいいんだよ!」と思った方。
はい。
その感情をぜひ覚えておいてください。

「注意する」「意識する」「気をつける」とか、つい口を出てしまうのですが、これらはほとんど具体性がない言葉です。なんかさみしいから付けてる、みたいな……雰囲気語とでも言いましょうか。
偉い人の挨拶に出てくる「そういった部分で」とか「〇〇ドリブンで」とか全力で向き合って」とかと同じ。
もっと言うと、会話に詰まったときの「うーんと、」とか「えーっとね、」とかと同じ部類の言葉です。

ビジネスの世界でも、よくあることだと思います。
「問題が起きたので、次は気をつけます。」
「成果が上がらないので、がんばります。」

何を!? どうするの!?
どう気をつけるか、どうがんばるかが知りたいのです。

つまり、注意点の正しい注意は以下のようになります。

「注意しよう」だけじゃ伝わらないので、注意すべきことへの具体的な対策内容を書こう

本当に意識を向けるだけで解決できること以外、「注意しよう」系のアドバイスはまったく役に立ちません。そして、意識を向けるだけで解決できるなんて、そんな問題は稀です。

基本的に「注意する」系の中身がない言葉を書いてしまったら、別の表現にしたほうがいい、と覚えておきましょう。
どんな動きをするのか、何を使ったらいいのか、何が起こったらどうするのか、もっと作業ベースで具体化していきます。
その具体的な対策内容を、「注意しよう」の代わりに示すのです。

実は↑ここまでで、当ページが言いたいことは言い切っています。これで実践できる方は、もう読了していただいてかまいません。

別の小ワザが気になる方は、以下もどうぞ。
小ワザ集1
小ワザ集2

具体化する手法が知りたい、もっと詳しく細かく知りたい、という方は以下へお進みください。

「落とさないように注意」だと、また落とすかも

私の仲が良い友人は、食後に洗い物をする際、誤って食器を落として割ってしまうことが多いタイプの人です。

本人も「注意する」と言っているのですが、改善の気配はありません。

その理由は、「注意する」だけでは対策として不十分だから。

ですが、誰にとっても「注意するでは不十分」か、というと必ずしもそうではありません。

私は、大好きなヒーローが描かれた食器を、お手伝いの洗い物の最中に取り落として割ってしまったことがあります。幼きあの日に「洗い物では注意しよう」と誓ってから、あのような悲劇は起こっていません。

つまり、私の場合は「注意しよう」で十分だったのです。

※もちろん、器用/不器用の個人差や、ついボーっとしちゃう、みたいな性質も影響しています。

「行動を変化させているか」が、注意成功のカギ

「注意しよう」という注意が、対策として不十分な人と十分な人がいます。両者の違いは、その後の行動を変化させたかどうか、です。

不十分な人は、漫然と「気をつけよー」と思っているだけで、具体的に行動は変化させていません。同じ行動だから同じ問題を何度でも起こすのです。

「注意しよう」で十分に問題を防げるようになった人は、どう注意するかを見つけて、以下のように行動を変化させています。

行動変化の一例
【1】洗剤がつくと滑りやすくなるから、食器を持つときは、指先で「つまむ」ように持つのではなく、大きく指を広げて「包み込む」ように持とう。
【2】手に持っている時間は最小限にして、洗い終わったらすぐに置こう。
【3】最悪の場合、落ちてもいいように食器を高く掲げるのではなく、シンクの中で低い位置で洗おう。
【4】洗い物が長引くと意識がそれて対策行動を忘れるかもしれないので、可能な限り早く洗おう。

上記のように「注意しよう」で十分対策できた人は、個人的に対策内容の具体化を行い、それをもとにして行動を変化させています。

このように「注意する内容を具体化」して伝えることで「どう行動を変化させれば良いか」が分かります。そして実際に行動を変化させるから、結果をより良く変えることができるのです。

対策の具体化は、どこまでも細分化・先鋭化できる

実は、対策の具体化はもっともっと細かくできます。

【5】界面活性剤による摩擦係数の減少具合に合わせた最適な指の角度と、食器を持つ際に加える最適な指の圧力を数値化して実践する。
【6】食器の形状ごとに、落とさない洗い方をマニュアル化して実践する。(標準書を作る。)

あるいは、「食器を洗っていると落として割ってしまう」という問題を、根本的に解決する方法もあります。
これまでの対策は「落として」しまうことへの対策にすぎませんでした。
食器を洗っている」に対しては、

【7】自動食洗器を買って、自力での洗い物はしない。
【8】紙皿だけを使って、皿洗いはしない。
【9】災害時やキャンプ時と同様、食器にはラップをつけて使い、食事が終わったらラップだけ剥がして捨てる。洗い物はしない。

といった方法で、食器をそもそも洗わない(=食器を洗っているという状況をつくらない)、という対策をとることもできます。

または、「割ってしまう」への対策として、

【10】木製/プラスチック製/金属製の、落としても割れない食器にする。
【11】シンクに大きなスポンジやタオルを敷き、クッションを作る。

という方法をとることで、食器を取り落としても割れない、というアプローチもできます。

そして、究極的には以下のような対策も考えられます。

【12】あきらめて、割れるに任せる。食器を洗っていて割れたら何度でも捨て、何度でも買い直す。
【13】食器は全部使い捨てる。陶器の皿も、ガラスのコップも、一度使ったら捨てる。
【14】食器洗い専門のお手伝いさんを雇う。
【15】食器は二度と洗わず、汚れがついたままにする。衛生的には問題があるが、それは「肉体を強靭にする」ことで解決する。
【16】食器は使わない。直火で焼き、手で食べる。
【17】文明に背を向け、野生で生きる。皿は葉っぱ。

だんだんと狂気じみてきました。

しかし結局、どの対策をどの程度採用するかは、個人に任せられているのです。

私は、簡単にできて、かつ効果も高い【1】~【4】を実施しています。

金銭的に余裕があるなら、「【7】自動食洗器を買って、自力での洗い物はしない。」を行っている人もいるでしょう。

また、私の別の友人は、自炊は絶対にしないので、結果的に「【8】紙皿だけを使って、皿洗いはしない。」という状態にあります(コンビニ弁当やパック惣菜を食べて、容器はそのまま捨てる、という生き方)。
別のミニマリストの知り合いは、食器を持ちたくないので「【8】紙皿だけを使って、皿洗いはしない。」を、ミニマリズムの一環として実践しています。

「【14】食器洗い専門のお手伝いさんを雇う。」なんて、一部の上流階級のみに許された贅沢……。と思うかもしれませんが、家事代行を活用しているワーキングママさんが知り合いにいます。

そして件の、何度も食器を割ってしまう友人は、「【12】あきらめて、割れるに任せる。食器を洗っていて割れたら何度でも捨て、何度でも買い直す。
」を採用しているのと、同じ状態です。

具体化した対策は、実現可能性と費用対効果で採用

「食器を洗っていると落として割ってしまう」という問題は、以下のように整理できます。

「食器を洗っていると(〇〇していると=行動)」
「落として(△△してしまい=良くないこと)」
「割ってしまう(××が起こる=不利益)」

注意する=具体的に行動を変える際には、
・行動そのものに対するアプローチ
・良くないことが発生することへのアプローチ
・不利益が起こることへのアプローチ
があります。

そして、小手先のアプローチであるほどすぐに実施できるが効果が薄く、根本的なアプローチであるほど効果が高い代わりに、やりにくかったり、現実的でなかったり(本末転倒だったり)します。

どの具体策をオススメするかは、文章の対象が誰であるか、どこまでが現実的で費用対効果に納得できるか、と照らし合わせましょう。

例えば、飲食店で皿洗いのバイトさんへ向けた指導書に「食器洗いのコツ!食洗器を買おう!」とは書かないと思います。
ですが逆に、飲食店オーナーへのアドバイスとして「食洗器を買いましょう。」や「皿洗い専門のバイトを雇いましょう。」は、かなり現実的な提案です。

まずは、小手先のワザから根本対策まで幅広く具体策を挙げましょう。

次に、対象者が誰か? その対象にとって、提案する具体策は有用か? やってもらえそうか? ということを基準に、どの対策を示すか決めます。
業務内容やスキル、資金力、境遇などをもとに考えると決めやすいです。

対策を決めた例1)
ゲームの攻略本を書いていたときのこと。
「右、左、右斜め上の順番で攻撃が来る。敵は素早いので、よく見て避ける。動きに慣れるまで、コンティニューを繰り返そう。」みたいな攻略法(対策)を書いたことがあります。
バツをくらいました。
理由は、「何度やっても攻撃を避けられない人が想定読者(ターゲット)」だったから。つまり、攻撃に当たってもゲームクリアできる方法を書かねばならなかったのです。
それが分かったことで、示すべきは「あらかじめ、〇〇のショップで回復薬をX個買っておこう。この後攻撃を受けた際に使おう。」という具体策一つに絞られました。

対策を決めた例2)
工場のライン管理を行っていて、標準書を書いていたときのこと。
不良品が多く生まれてしまう作業が存在することに気づきました。
私は必死に、不良品を生まないために該当の作業に繊細な工程とチェック項目をつけ足して、不良品を減らそうとしました。
ですが私が書いた標準書通りに作業すると、作業効率が相当落ちてしまうことがわかりました。
ここで必要だったのは、「良品を決められた個数製造し、納品すること」です。「作業工程で不良品を出さないこと」ではありませんでした。
結局、製造後の工程に「不良品を発見する専門の作業者を追加する」ことで問題を解決。そして計算上の不良品発生率を引き上げ、多めに材料を発注し、不良品が少し上振れて発生したとしても「良品を決められた個数製造し、納品すること」ができるようになりました。

「まったく新しい作業を、作業者ごと追加する」という方法は、「不良品を出さないように注意する」という視点では生まれなかった解決策です。

部品1000個を作るための必要費用が、追加人件費と追加材料費ぶんアップしています。それでも、「製造ラインにボトルネックを作って、不良品を減らすこと=時間対製造個数は落ちるが良品率は上がること」より「費用を追加してでも滞りなくラインを流すこと」のほうが、費用対効果は良かったのです。

対策を決めた例3)
洗い物をするときに、私は【1】~【4】の対策を追加しただけでなく、

【18】お気に入りの、ちょっと高い食器を使う。自然と背筋が伸び、緊張感が増し、食事だけでなく洗い物すら楽しくなり、丁寧に扱える。

ということをしています。
まるで風が吹けば桶屋が儲かるみたいな感じですが、ぜんっぜん違う方向からのアプローチで、問題そのものを解決できる場合すらもあります。

でも結局は「~ということに注意する」に行きつく

どこまで具体化して対策を促すかは、ターゲットによります。

【1】洗剤がつくと滑りやすくなるから、食器を持つときは、指先で「つまむ」ように持つのではなく、大きく指を広げて「包み込む」ように持とう。

上記は、かなり具体化されていると思います。

でも、「持ち方を変えること」を忘れてしまったら? 「対策としての新しい持ち方が、どんな持ち方だったか」を忘れてしまったら?

紙に印刷して手順書を台所に張り出す? では、張り出した紙を見ることを忘れたら?
より詳しく書くなら、以下のようになります。

【1】洗剤がつくと滑りやすくなるから、食器を持つときは、指先で「つまむ」ように持つのではなく、大きく指を広げて「包み込む」ように持とう。特別な持ち方にすることを忘れないように、台所に洗い物手順書を張り出そう。持ち方を思い出せるように、毎回必ず手順書を読もう。手順書を読むことを忘れないように、蛇口に「手順書チェック、ヨシ!」の張り紙をつけよう。「手順書チェック、ヨシ!」の張り紙を見たら、すぐに手順書を読むように注意しよう

……と、いうように、「もし〇〇したら?」という想定を続けに続け、すべてをフォローして行くと……結局、「~と、注意する。」「~と、意識する。」に行きついてしまいます。

突き詰めたら「~と、注意する。」になるけれど、では、どこまで説明すべきでしょうか。それは、説明する対象が「どの段階で行動を変えてくれるか」に合わせます。

「落とさないように注意しよう」で行動を変えてくれる人がターゲットなら、「注意しよう」だけでも良いです。
「具体的な持ち方の指示」を伝えなければ行動を変えてくれないであろう人がターゲットの場合は、そこまで示しましょう。
「具体的な持ち方の指示をしても毎回忘れてしまうので、毎回思い出してもらう必要がある」という人がターゲットなら、その人が毎回忘れずに洗い方を変えてくれるような対策を示しましょう。

いきなり「注意しよう」を書くのは理解不足の証拠

結局は「注意しよう」に行きつくなら、最初から「落とさないように注意しよう」でいいじゃないか……とは、なりません。

いきなり「注意しよう」しか対策が出てこないとするなら、それは自分のなかで「行動を変えるような具体策」を言語化できていないということ。
つまり、問題に対して理解不足である証拠です。

問題を要素で分け、理解&具体化

問題に対する自分の理解が不足していて、対策の具体化ができていなかったとしたら。
要素別に切り分けて、それぞれについて考えていきましょう。

まず問題解決に必要な要素を、
・行動そのものに対するアプローチ
・良くないことが発生することへのアプローチ
・不利益が起こることへのアプローチ
に切り分けます。
そしてそれぞれについて、すぐできる手法、根本的に解決する手法(だけどちょっと大変な方法や、視点を変えたドラスティックな方法)を考えてみると良いです。

思いつかないときは、自分が認識している問題に対して、下記を問いかけてみてください。

【行動そのものに対するアプローチ】
・なぜその行動をすると、良くないことが起こるのか?
・行動に課題はないか?
・変えたら解決できる場所はないか?
・その行動は必須か? 
【良くないことが発生することへのアプローチ】
・なぜ良くないことが起こるのか?
・良くないことを阻止するにはどうすればいいか?
・良くないことは、そもそも阻止できるのか?
・良くないことが起こってしまうと、必ず不利益に直結するのか?
【不利益が起こることへのアプローチ】
・なぜ不利益が起こるのか?
・なぜそれが不利益なのか?
・不利益が起こることは、本当に問題なのか?
・具体的にどのくらいの不利益で、防ぐためにどのくらいコストをかけられるのか?

ひとまず、「注意点に注意」と覚えておく

これらすべてを踏まえて、私は「注意点を書くときは注意する。」と、覚えています。

当ページの初期でお伝えした、「だから結局、どうすりゃいいんだよ!」という感情を思い出してください。

「注意点を書くときは注意する。」に対して、「だから結局、どうすりゃいいんだよ!」というセルフ突っ込みを入れるはずなので、その際に必ず「あ、”注意を払ったうえで、どう対応・対処すべきかが書いてない”っていう問題があるってことか。」と、思い出せるので便利です。

注意点を書こうとして真っ先に「注意しよう」という言葉が出てくるということは、自分自身が対策を具体化できていない証拠。問題を理解するために、要素に分解して対策を具体化・細分化・先鋭化していきます。

そして私自身は「注意点を書くときは注意する。」という内容で上記すべてを連鎖的に思い出し、対応できるので、「忘れないように〇〇をして~」というところまでの、細かい注意点は不要です。私にとっては不要ですが、もしかしたら必要な人がいるかも……と、思い出すことによって、どこまで具体策を示すかの基準を決められます。

まとめ

・注意内容は具体的に示し、行動を変えてもらう。
・問題を要素に分け、小手先対策と根本対策を考える。
・どの対策をオススメするかは、実現性&費用対効果と相談。
・どこまで具体化するかは、ターゲットに合わせる。
・「注意点に注意」と覚えておき、対応方法は連鎖的に思い出す。

これで、問題を減らせるような注意点を書けるようになったと思います。

(ずいぶん長い、”ひとくち“テクニックでしたね……。お疲れさまでした……。)

もうちょっと小ワザを見てみたいという方は、以下もどうぞ。
小ワザ集1
小ワザ集2

当ページもいずれ、小ワザ集にまとめていきます。
(小ワザ集では、もっと短くまとめています!)

それでは、みなさんに良きクリエイターライフがあらんことを。

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