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グラフィック・デザイナー(50代)の苦悩 テーマ#11 デザインの価格設計について

みなさん、こんにちは。フリーランス・グラフィックデザイナー(50代)のブブチチと申します。デザインを生業にして30数年。気がつけばシニアと呼ばれるにふさわしい年齢になっていました。noteでは、デザイナー人生においての出来事や学んだ事を自身の体験を交えながらつらつらと自由に書き連ねています。お時間ございます時にゆるくご一読いただければとても嬉しく思います。

すっかり寒くなりましたね。みなさんは風邪など召されておられませんか?
少し前から、我が家のストーブにも火が入りました。

僕も愛犬(♀)もエアコンより断然ストーブ派。「ストーブを愛する会」というものがあるのなら、会長の役を引き受けてもいいぞと思うくらいに、あの優しいぼんやりとした暖かさが大好きです。

そして、野良から新しく家族になった子猫(♂)にも、ストーブ前でのうたたねの幸せを教えるという罪なことをしてやりました。これで奴も間違いなく会の一員になると思われます。

余談はこれくらいにして、そろそろ本題に・・・。

今回は、最近よくいただく質問をテーマに書いてみたいと思います。
デザインワークの価格設計について

デザインワークにおける見積もりや値決めは本当に難しいですよね。
いつも悩みます。

自身の整理の意味を含めて、価格設計についての考え方を少し書いてみたいと思います。

星の数ほどある中の考え方のひとつとして、気軽にお読みいただければ嬉しい限り。どうぞ、最後までゆるりとお付き合いくださいませ。

時間換算はしません

僕は制作にかかった時間を考慮にいれた算出はしていません。理由は明快。僕の場合、時間を価格の根拠のひとつに含めてしまうと損をするからです。

自分で言うのもなんなのですが、僕は比較的、手が速いデザイナーだと思います。

あくまで仮定のお話ですが、他のデザイナーの方が制作に1週間かかるとすれば、僕はたぶん3〜4日くらいでのアップを目指してプロセスを組みます。

だから、○時間かかったから○万円的な算出をしてしまうと、少しでも早く喜んでもらうためにすごく頑張ったのに、それが仇となって結果的に損をしてしまうのです。

また極まれにですが、早く出来た=きっと簡単だった=だから安くして…という思考のクライアント様もたまにおられたりして、時間を価格に含めてしまうとあまり良いことがありません。

偉そうな言い方になってしまって恐縮なのですが、そのデザインが1ヶ月かかって完成したものであろうが、はたまた5分で完成したものであろうが、そのことはデザインの価値とはまったく関係ないと僕は思っています。

と言いつつ、子羊のようなメンタルなので「こんなに時間かけて頑張ったんですよぅ」と愚痴含めて言いたくなる時もたまにはあります(笑)。

でも、やっぱり対価をいただく価値は、デザインそのものにあるのだということを忘れてはいけないのです。

価格表は作りません

買う方(つまりご依頼ただくクライアント)にしてみれば、依頼前にだいたいのデザイン料金が見える方が安心だろうということはわかっています。

たとえ見積もりを依頼するだけだったとて、思ってもみなかった額の見積もりを出されて、また別のところでいちからやり直しなんて無駄な時間をかけたくないですものね。

わかっているのだけど、でもやっぱり僕は事前に価格表なるものを用意しようとは思いません。

それは決して、もったいぶっているとか、はたまた自分のデザインに価値をつけたくなくて…というわけではないのです。

理由は、あらかじめ価格を設定してしまうとそのあとの柔軟性の障害になりやすいからです。

少しだけ補足説明させてください。

つまり価格を設定してしまうと、デザインに着手する前からお客様であるクライアントに対して、その価格枠をはみ出ないように色々なルールや規程を設け、お願いしないといけなくなるんです。

例えば、修正は3回までとか、ラフデザインは2パターンまでとか、チェックバックは4回までとか・・・。
一見、クライアント側にとってもデザイナー側にとっても、明瞭会計のように思われるかもしれません。

が、僕たちデザイナーは、感覚や感情を多く含んだ商品を取り扱っていて、ゆえにそこでは人対人の関係性がとても重要になると常々感じています。

修正1回増えたから料金追加。ラフデザイン1案余計に作ったから料金追加。休日に制作対応したから料金追加…。僕らの儲けどころはそこではないだろう?と僕は思うのです。

そもそも価格表を言い訳にして融通が効かないクライアントとの関係を作りたいと僕はどうしても思えない。

確かに価格表は、なんの後ろ盾もない僕のようなフリーランスデザイナーを守ってくれる頼もしい「壁」になる事もあります。

が、文字通り、それは「壁」です。顔の見えない取引で完結できるなら、そんな風に「壁」を隔てての関係でも良いかもしれませんが、僕は僕の関係するクライアントのみなさんとそのような関係を望んではいません。

それに、もしも逆の立場であれば、なにかお願いするたびにタクシーメーターのごとく積算されていては「このデザイナーと長く付き合いたいな」とはとうてい思えない。

融通がきくってね、実はけっこう需要があり、そして重宝されることなんです。

でもその一方で、つけ込んで、利用して、当たり前の顔をしてくる人たちも世の中にはたくさんいるのも現実です。

終わってみれば対価に似合わない使われ方をして、疲弊とストレスだけが残った…なんて時もあるかもしれません。僕も幾度となく経験してきました。

ですので、もしもこれからの若いフリーランス・デザイナーの方が読んでくださっているのなら、お伝えしておきたい。

そういう人たちに出くわしたら、一回の被害は勉強代だと思って、一刻も早くそこから逃げ出してください。それはフリーランスである僕たちの数少ない特権です。

そして、不幸にもそんな被害に遭われた場合は、だからといって、この世の終わりみたいにどうか悲観しないでくださいね。

過去に心とらわれず、今、目の前にある仕事にしっかり集中して対峙し感謝を忘れないあなたであれば、やがては、おのずとそれに誠意で応えてくださる人たちが集まり似合った関係が構築できます。必ず。

これは、なんとかこの業界を長年生きているおっさんが言える数少ない確かなことのひとつです(笑)。

相見積もりは気にしない

デザイン業界にかかわらず、どんな業界でも比べられて決定されることは頻繁にあります。特に「価格」はその比較対象になりやすいですよね。

価格よりもアイディアやデザインを優先してほしいというのが真っ当な本音ですが、ビジネスである以上、まず価格ありきな事も仕方がありません。

これは僕の勝手な印象でしかありませんが、民間の事業会社に比べて、行政とかお国がらみのお仕事はとくにその傾向が強いような気がします。そもそも、見積もりを出すこと自体を「入札」って呼ぶし、少し他とは違う印象です。

で、そんな相見積もりになった時の価格設計はどうしているのか?ということですが、僕の場合は普段通りです。あえて競合先の下をくぐろうとする設計をすることはありません。

あっ、誤解しないでくださいね。決して器の大きい男気をアピールしたいわけではないのです(笑)。

そんな事よりも、ここでお伝えしたいのは見積もりの重要さです。見積もりってとても大切な設計書であり、極めてクリエイティブな制作物のひとつなのです。

デザインワークにおける大きな山場って、実は見積もりを創る時とコンセプトメイキングする時のせいぜい2つではないだろうかと思っているほど、僕は見積もりには気と時間を使います。

自分の付加価値、必要な原価、継続性はどうかという思惑、貸しを作っておきたいという下心、最近のクライアントの懐事情と値頃感、色んな打算をいっぱいに詰め込んでクリエイティブします。

それはもう丹精込めたラブレターです。ですので、それで振られたら仕方ありません。スパッと諦めます。悔しさや未練がまったく無いとは言いませんが、アイディアやデザインで負けるよりはまだ精神衛生上はよいですね。

そうそう、全然関係のない話なのですが、見積もりを作る上での余談のひとつとして、大手代理店から発行されているアドプライスを参考にされることは僕的にはあまりおすすめしません。

理由は明白。すごく高いからです。

あれは一度の広告にン千万を投下できる体力をもったクライアントに適した価格表だと僕は思います。

もちろん、そんなクライアントとお付き合いがあるデザイナーの方なら心配無用でしょうが、僕のようにコツコツと小さな商いを数多くお手伝いしたいと思うデザイナーには不向きです。アドプライスを真に受けて見積もりを設計して出そうものなら二度と呼ばれなくなりますから、くれぐれも注意してくださいね(苦笑)。

さてさて、すっかり長くなってしまいました。ごめんなさい。

僕の場合、だいたいこの3つの考え方を基本として価格設計を行っています。

ああそうだ、ここまであえて文字にはしませんでしたが、いずれの場合も一般的な相場をちゃんと把握できているということは大前提です。

よく、デザインの価格なんてデザイナーが決める価格ありきだから、幾らにでもできていいねえと妬みのように言われることがありますが(苦笑)、それは少し違います。

そういう人たちは、たぶんデザインとアート(芸術)をごっちゃにしている気がします。

確かに僕らの商売は製造業と違って原価の積み上げで売値を決めるものではありませんが、ビジネスの世界での商業デザインにも、場所や相手に応じてちゃんと相場というものが存在します。

そして、幾つもの代理店やデザイン事務所や僕らのようなフリーランスのデザイナーを相手に発注しているクライアントは、相場をとってもよくご存じですし、またとても敏感です。

そういう人たちと交渉しないといけないのですから、一般的な相場へのアンテナはいつもピリリと張っておきましょうね。

今日も最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。
ストーブの前で幸せそうに眠る子猫からも、あなたに精一杯の感謝を…。

                                ブブチチ


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