「 未定 」#39 You'll never walk alone

ダグに書いてもらった地図を見ながら街の外れのマントールの館までたどり着いた。
「ごめんください」
ギギィーと音を立てて扉が少し開いた。恐る恐る扉を開けて中に入ってみる。薄暗い室内に置いてある様々な実験に使う道具の数々、カラフルな色の光がそれらを不気味に浮かび上がらせ照らしている。ゴボゴボと音を立てて実験用の容器から不思議な煙が吹き出しており、なにかのハーブの香りのような匂いがあたりに立ち込めている。その先に大きなつばの広いハットを被った男が背を向けて机に向かい椅子に座っている。彼がマントールだろう。

「おう、来たな。いつか来るとは思っていたんだ。イズコだろう?」

そう言うと椅子ごと半身でこちらを向いた。それでも大きな帽子のつばが影になり表情は確認できない。彼の目だけがこちらの様子を伺っていることが確認できた。

「え?!・・・あなたが錬金術師のマントール?」

「いかにも。変な挨拶になって悪かったな。俺はこの世で情報が重要だと感じていてね、それに金は惜しんでいないのさ。だからお前のことは、よく知っている。お前、以前から仲間を集めようとしていたよな。バルバと接触したことも聞いていた、いずれここに来ることは想像がついたよ」

「そう・・・僕がここに来たことが迷惑じゃなければいいけどね。ところで、僕は『金の苺』を探している。どこにあって、どうすればそれを得られるか。有名な錬金術師のあなたならなにか知っているかと思って訪ねてきたんだ。」

「金の苺か、ああ知っているさ。でもな苦労して得た情報なんだぜ。お前に簡単に教えると思うかい?」

「わかった。いくらだ、金は払うよ」
バッセーロから軍資金を預かってきたんだ。不足はしない金額は持っていると思う。

「ははは、冗談だ。金はいらない。世間では俺のことを金の亡者と思っている奴が多いらしいがな。気に入らん奴には金を出しても教えるつもりはないが、お前には教えよう。でも普通、簡単に教えるものじゃないからな。それだけは理解しといてくれ。『金の苺』はこの街を出て北に進むと『幻惑の森』という鬱蒼とした森がある。その奥にある湖の畔にあるようだ。しかしここでの困難は2つある。一つはこの森に入ると妖精の仕業で方向がわからなくなる。2つ目はそこに飢えた強力な狼の群れに襲われることだ。この2つで『金の苺』が入手が困難なものになっている。これを持っていけ。これは森の妖精たちが好む匂いで様々な薬草などを混ぜ合わせた香水だ。これを体かければ妖精達が気をよくして幻惑されないという話だ。出どころは書籍と成功したという人間の話だ。確証はできないがな。一人では無理だ、パーティーを組め。」そういうとマントールはイズコに近づいて香水の瓶を手渡した。

「いいのかい、ありがとう、助かったよ。よし、何とかなりそうな気がしてきたぞ。」

「ところで、ダスカロスの爺さんは元気か?」

「え、さすが情報通だね。僕が世話になっていたときは全然元気さ」

「あぁそうか、最近は会ってないが、ダスカロスはちょっとした知人でね」

「そうなんだ・・・しかし、この世界は広いようで狭いね」

「お前、ずっと孤独に生きてきたみたいに思ってるかもしれないがな、ダスカロスとか見ると案外そうでもないだろ、そう思わないか?」

「そうかも知れないね」

「さあ、時間はないんだろ。早く行ってこいよ、気をつけろよ」


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