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【アマゾンと出版流通】について。

先日6月15日(土)、JR京都駅近くにある学芸出版社3Fにて開かれた「出版労連60周年記念講演フォローアップの会」に参加してきました。

内容は、3月2日(土)にコープイン京都で行われた出版労連60周年記念の永江朗氏講演の要約報告、そして出版社側の報告(せせらぎ出版)、取次側の報告(元大阪屋管理職A氏)、書店からの報告(隆祥館書店〜代読者による)といった出版−取次−書店と三者を交えてのセミナーでした。

この記事では概要のみをお伝えします。
しかしどれだけ日本の出版流通が旧態依然としていたか?        Amazon(※以下英語表記)はまず日本の出版界へ業界の根幹ともいえる〈再販・委託販売制度〉を守ったうえで現地化をしながらいかに食い込んでいき席捲していったのか?
が、判るかと思います。結果として日本の出版流通はAmazonに様々なことを教えてもらった、ということになります。

3月2日の講演で永江氏が指摘していたのは、
「読書率は下がっていない、一箱古本市や広がるブックフェス・読書会」「少子高齢化・市場縮小・デジタル社会への無策、本の偽金化・自転車操業化の放置、出版流通の低収益化への無策・流通改革の放棄」
そして「Amazonに飲み込まれる出版業界」。
Amazon上陸時2000年がAmazonショック1.0、2008〜2010年頃のスマホ・タブレットと電子書籍が2.0、2017年頃からの取次バックオーダー廃止などの直取引・買切・時限再販推進の動きが3.0と見られています。

Amazonは日本の出版業界の黒船だったのは、以前から何度も述べていますが、今回はさらに掘り下げたもので、Amazonと日本の出版業界に焦点を当てた話でした。
……まず意見が出たのは【取次の功罪】                          
プラス面としては            
①全国の津々浦々の書店にほぼ同時期日・送料なしで届く           ②新刊委託配本により、出版社・書店が手間暇をかけることなく自動的に送品されてきた
マイナス面としては
①大手出版社の利益擁護システムで『大手・中堅・零細出版社』の三重構造による【支払いシステム】と【掛率】の差別
②取次からの請求・支払の仕組みが複雑
③客注(読者からの取寄注文)の軽視
④書店に対しても極端な大手書店優先、零細書店切捨

④に対してはさらには【ランク配本】と【見計らい配本】制度に対する理不尽さ。

……その問題提起は、
取次は
①すべての出版社と書店との取引条件を平等にすべき
②複雑な請求支払条件を一般の常識的な商習慣にすべき
出版社は
①取次に依存しない流通(書店との直取引など)
②新刊委託依存の見直し
③オンデマンド印刷を活用し、少部数初版・増刷で過剰在庫・返品をなくす
④POD出版、電子書籍を併用して多様なニーズに応える
→そのうえでAmazonを上手に活用する
書店は
①読者の要求を満たす独自のカラーをもつべき→そのうえで出版社との直取引の検討
など。

……その他は【Amazon e-託】についてのお話も。
いうまでもなくAmazonはネット注文して翌日配送を行い、送料は無料。巨大倉庫(フルフィルメントセンター=FC)は全国19箇所にあり、書籍在庫は千葉県市川市の市川FCと大阪府堺市の堺FCだ。
出版社とネット書店であるAmazonとで、取次を通さない〈直取引〉の仕組みをいう。
・この仕組みは個人でも契約は可能で、ISBNコードを取得さえすれば自費出版本を流通させることさえできる。
……ここが重要で、極めて公平な取引なのだ。
・一般的な商習慣の月末締め・翌々月末払い。
・AIによる発注予測と倉庫管理
・返品率は新刊が20%、既刊が3%。この3%というのは圧倒的な低さだ。
・取引出版社の推移は2017年−605社、2018年−585社、2019年3月現在が3247社(出版社の9割以上)にも上っている。ただほとんどが取次と兼用で取引する出版社が実情だ。発行の全点をAmazonに登録する出版社を優遇するとのこと。

……あとAmazonのマイナス面でもある【ブラック企業疑惑】も。
・AI化による使い捨て過重労働
・ヤマト運輸などの物流危機による配送業者への経営圧迫(読者への送料無料が至上命令からなる)
・タックスヘイブンによる莫大な税金逃れ 
などの指摘がありました。

これだけでも大きな話ですね。貴重すぎます。〈顧客第一主義〉といわれるAmazonは取引については徹底した〈秘密主義〉。実情をこれだけ知っただけでも大きな収穫といえましょう。
戦前の商習慣の名残ともいえる「しょたれ」「ゾッキ本」などの古い言葉に象徴されるように、取次業界にいながらほとんどの事柄に対し、常々古さを感じていました。
しかし「文化産業だから」「日本の出版文化を守る」ということで納得していました。
でもそれは戦後長年安定業種と呼ばれた時代だったからこそいえる話。
すでに取次崩壊・物流危機の迎えてしまった今となっては、世の中の変化に対してあまりにも無策だったと言えましょう。
じゃあなぜ変われなかったのか?
・トーハン・日販の二社でシェア70〜80%を戦後から現在に至るまでずっと保っていたこと→それは、日本の取次会社の前身は戦前思想統制によってできた国策独占企業〈日配〉が母体だから。
・取次の株主が大手出版社たちであること。
・大手書店・出版社はさほど経営危機ではないこと。
結局これらが安泰ならば、根幹を変えることがほぼ不可能ですね。

続編も書き込みます!

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