五感を震わす「場」の力_アートエデュテイメント#09
アートエデュテイメントについて、主にビジネスを熱心に進められている方々を読者と想定してお話してきています。
サイト・スペシフィック・アート
サイト・スペシフィック・アートという言葉をご存知ですか?
平たく言えば、その場所に行かないと鑑賞できないアート作品、といった感じでしょうか。
では、かの有名なミケランジェロの描いたシスティーナ礼拝堂の天井画は、サイト・スペシフィック・アートでしょうか? イタリアのローマ、バチカンまで行かないと、絶対に観る事ができませんからね。美術用語では、残念ながら、ちょっと違うようです。
そうです、割と最近の概念みたいなので、ルネサンスの頃の作品は、サイト・スペシフィック・アートとはおそらく呼ばないのかなと。
心が動いた作品
2022年9月、丁度今頃の季節でしょうか、宮城県石巻市や牡鹿半島を会場とする、Reborn₋Art₋Festivalに行ってきました。そこで出会った、《白い道》島袋道浩作、という作品が忘れられません。
レンタカーでたどりついた先には、申し訳程度の案内板しか立っておらず、正直、作品があるのかどうかも不安になりました。ちょっとした森のような中の道を進んでいるうちに、「あ、この道自体が作品なのかな」と気づくようなしだい。
ところが、作品を踏みしめながら、歩き続けると、あるタイミングで道の前方に、海とその先の島(実は金華山なのですが)が眼前に開けるのです。晴天だったこともあり、その景色の眩しいことと言ったら…。嗚呼、この道のり(体験)そのものが作品なのだと、とても感動しました。
初めて訪れた場所の美しさを、五感を通して味合わせてもらった作品で、とても心を動かされました。まさしくサイト・スペシフィック・アートでした。
場の力
話題の展覧会で、名作を見ても、あまり心が動かない時があるのは、これが大きな理由の一つかなと思うのです。すなわち、作品のある「場」が、作品とあまり一体化していないので、五感で感じる部分が少ない。巨匠の作品が、たまたまそこにあるだけ。「鑑賞」というよりは、「確認」するような感じの対面の場になってしまっているので、感動しにくい。
私たちは、自分で思っている以上に、五感で様々なことを感じ取っています。作品そのものだけではなく、その周りの環境、ひいては、その作品につながる種々多様なものを感じとる力が私たちにはあるのです。現代社会になって、頭でっかちになった私たちが、そのことを久しぶりに思い出した。それが「サイト・スペシフィック・アート」なのかもしれません。ルネセンスの頃は、当たり前のこと過ぎて、必要のない定義だったのではないでしょうか。
心を豊かにしてくれる商品?
ビジネス開発の現場で、デザイン思考やアート思考が注目されるようになってきて長いですが、感動する商品やサービスに出会うことは、まだまだ少ないなと感じています。ジョブスのような天才を待つのではなく、一人一人が自分の五感を素直に表現し合える「場」を増やしていくことが、存外近道なのかしれません。そして、そのためには、五感を震わす体験を重ねることが大切なのかなと。
ということで、そろそろ「芸術の秋」。色々なところを訪ねて、ぜひぜひサイト・スペシフィックなアートエデュテイメントをお楽しみください。
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