③第1話:一人暮らしと暮らしの変化
ひとりぼっちのゴールデンウィークが始まった。
私の仕事は基本土日が忙しく、1週間で休みの日はあまりない。
年間でまとまった休みが取れるのは、お正月・お盆・GWの3つの期間くらいで、毎年、GWなどの季節になると、今回は妻とどこに行くか相談するのが楽しみだった。
でも、今年は、誰に相談せずとも、どこへでも行ける。
私が何かを提案をするたびに、「それは違う」と言われることもないし、せっかく調整した予定を「別の用事が入った」と言って変更されることもない。
いたって快適なGWになるはずだった。
はずだった・・・が、いざ自由になってみると、ひとりで何処に行って、何をしたらいいか忘れてしまっていた。
ひとりになって寂しかったかというと、寂しくはなかった。
なぜなら、部屋にはまだ彼女の大量の荷物が溢れていたから。
引っ越し間際になっても、まったく準備をしていなかった彼女は、当然ながら、1日では、引っ越しを終えることができなかった。
「思ったより、荷物いっぱいなんだね」
と、いう言葉をまるで他人事のように残して去っていった彼女。
事前から何度言っても私の言うことは納得してくれず、「いざ」その場面が訪れて、初めて私の言葉を理解してくれる。
「いざとなったらなんとかなるよ。私、運が良いから」
と、いう言葉をよく言っているが、なんとかしてるのは、彼女ではなく、たいていが「彼女の周り」の人が助けているだけだった。
自分で自分のしたことを責任もってやり遂げるなら、彼女がどう生きようと文句はないのだが、結局最後に助ける場所にいる身としては、彼女の行動にどうしても口を出したくなってしまう。
変わらないな。と、心底思った。
きっと、これから先も変わらないのだろう。
最後まで、彼女は彼女のままだった。
離婚からの別居が長期休みで良かったのかどうかはわからない。
仕事があれば、仕事に打ち込んでいただろうし、仕事が無ければ、無かったなりに、気持ちの整理をできたかもしれない。
ただ、今回に限っては、彼女の引っ越しを完結させる。という、大きな仕事があったので、休みが続いたのはとても良かった。
彼女には申し訳ないが、荷物は整理をせずに、ほぼほぼすべてケースに詰め込んだ。分別の確認をするほど、時間に余裕は無かった。
途中、彼女が珍しく分別した、「捨てても良い服」の袋を見て、戸惑った。
そこには、私と過ごした期間によく来ていた服がたくさん詰まっていたから。
一瞬、その服を無駄に空いてしまったクローゼットのスペースにしまおうかと思ったが、勇気をもって、思い出とともに、すべて捨ててしまった。
その服は、おおよそ私が好きな服装だった。
不思議なもので、特に私の好みを伝えたわけじゃないのに、彼女は、私の好みの服装や格好をしていた。
そして離婚する直前の1年に至っては、不思議と私の好きではない服装や格好になっていた。
彼女に直接伝えたわけじゃないが、急に染め出した髪色は内心微妙だと思っていたし、彼女の持つバックや、服は、好みじゃないな。と、うっすら思っていた。
今思えば、このころから、心のすれ違いは始まっていたのだろう。
掃除をすると、部屋のあちこちに長い髪の毛が落ちていた。
最初は、その多さに煩わしさを感じていたが、その本数が減るたびに、なんだか掃除をすることに寂しさを覚えるようになった。
ビデオの録画機には、彼女の好きだったテレビ番組の録画が溜まっていく。
大好きだった、あの番組も、ひとりではとても見る気になれなかった。
彼女との思い出の容量は、みるみるうちに、満杯になっていった。
買い物をするために、近所のスーパーのポイントカードを作った。
もう、彼女の代わりにポイントを溜めたり、ビンゴをすることもないようだ。
スギ薬局のポイントは、彼女の電話番号を言えば加算されるが、それも変だな。と、思って、自分のカードをアプリで作成した。
離婚したのが春で良かったかもしれない。
これが冬だったら、たくさんのイベントの多さと、冬の寒さで、さすがの私も孤独の辛さを感じていたかもしれない。
ただ、別れたのが春だったから、これからあたたかくなりゆく季節に、どこか、希望を持つことができた。
気づけばGWは、あっと言う間に終わっていた。
テレビでは、天気予報士が、例年にない、梅雨入りの早さを告げていた。
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