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③最終話:一人暮らしと「手紙」
朝になると、セミの鳴き声で目が覚める。
季節はすっかりと夏になっていた。
つい先日、関西でも梅雨が明けたらしい。
今年は梅雨入りは早かったが、梅雨の終わりは平年と変わりがなかった。
深夜には雷が激しく落ちる日が多かったことを覚えている。
夏の暑さに負けてクーラーをつけることを決意した7月の上旬、元妻の親友のまりんちゃんから、久しぶりにメールが届いた。
「ともえちゃんから婚姻届が突然送られてきてびっくりしてる。再婚するの知ってるかな?念のため報告しておこうと思って」
どうやら、元妻は、親友にもあまり相談もせずに、婚姻届の保証人を頼んだらしい。
もちろん、私にも特に報告はない。
先日直接話した段階では、離婚が本当に成立するかは不明だった。もちろん、話のニュアンスでは、おおむね離婚することがわかっていたし、彼女が私と離婚した日付から、そろそろ結婚するであろうことは予測がついていたが、彼女からの正式な連絡はやはり無かった。
ちなみにまりんちゃんからのメールの数日前には、不倫相手の彼から、慰謝料を一括で支払い、離婚が無事成立した旨のLINEが届いていたが、やはり彼女から私へは直接連絡はなかった。
彼女の中では、やはり私の優先度は低いのだろう。
そして、彼女得意の「事後報告」で十分だと思っていたのかもしれない。
別に、私を優先する義務は彼女にはないが、彼女を温かく見守った「つもり」の私としては、寂しい限りだった。
今回の離婚については、慰謝料も請求していないし、離婚日についても私の協力によるところが大きく、見方によっては私は大スポンサーとも言える。
ある程度は離婚の状況と再婚に向けての途中経過が欲しかったところではあるが、ひとつのことに夢中になってしまう彼女にそれを期待するのは無理があるだろう。彼女を知っている人間なら、期待するほうが悪いのだ。
彼女の世界の枠外になってしまった私にとっては、もはや彼女の希望が叶い、幸せであってくれればそれで良い。
彼女が再婚することが現実だと認識すると、私は先日もらった彼女からの手紙を改めて読み返した。
「あなたみたいに上手な文章は書けないけど」
と、言っていた彼女。
確かに、凝った言い回しや表現はないけれど、そこには二人にしかわからない確かな思い出があり、また、彼女にしか書けない彼女の感情のリアルがそこにはあった。
私も私なりの日常生活を取り戻していたし、ブログを書いて、彼女との日々は全部忘れたはずなのに、この手紙1枚で、全部、すぐに、取り戻してしまう。手紙の大半には、離婚間際のことについて、丁寧に感謝の念が書かれていた。
世界一の朝食が美味しかったこと。
部屋の掃除をしてくれて、毎日快適に暮らせたこと。
久々に自分で髪を乾かすとドライヤーが重いことに気づいたこと。
たくさん手紙を書いて、思い出をカタチに残してくれたこと。
ベタだけど、でも、ひとつひとつ丁寧に、感謝の言葉が綴られていた。
ただ、便箋も最後の1枚になると、思わず「ふふっ」と笑ってしまうような、ともえちゃんの世界が描かれていた。
「手紙を読んで、良いことも悪いことも自分では結構忘れてるって気づいた。今が良ければ、それも全部良いことに変換していて、手紙に書いてある悲しかった出来事も他人事みたいに思える。」
「自分勝手で自由すぎてワガママな本音を言えば甘やかされるだけの関係でいたかった」
まず、前半の内容について言及するならば、これはものすごい褒め言葉だと、私は解釈している。
「今が良ければ」と、いうのは、新しい生活が幸せだという風に解釈ができる。
そして、今が幸せなので、過去にあったことはもう気にしていない。と、いう彼女のなりの言い回しだろう。
私が密かに後悔していた、彼女を傷つけてしまったことを、遠回しに許してもらえた気になった。
後半については、もう言うことがなく、まさに文面の通りとしか言えない。
最後の最後にこれを言えてしまうのが、ともえちゃんである。
私は彼女のことが好きだったが、これは私にはきっとできないことだ。
次の旦那には、ぜひ私にできなかったことを、最後まで責任を持って実現してほしいと願っている。
それから数日経ったある日、ついに彼女から私あてにLINEが来た。
「婚姻届、受理されました」
もしかしたら、結婚の報告すらしてもらえないんじゃないか。と、密かに覚悟はしていたので、このLINEを見た瞬間、私はとても安心したし、嬉しかった。
そして、その安心とともに、もっと彼女を信じてあげたら良かったな。と、今さらながらの反省をした。
そう。彼女は要領が良くなく、マイペースで、時間や締め切りを守ることはできないのだけど、それでも目の前の物事に、ひとつひとつ懸命に向かっていたのは間違いなかったのだ。
そして、とっても遅くはなるけれど、最後には、きちんと自分のやるべきことをしてくれる。私はもっと彼女を信じてあげたら良かったのだ。最後まで待っていてあげたら良かったのだ。
手紙の最後にも、
「手紙が遅くなってしまってごめんね。最後まで私らしいね」
と、いう言葉が添えられていたことを思いだす。
最後の最後まで謝らせてしまうのも、「私」らしくてなんだか申し訳なかった。
こうして私の離婚騒動は、彼女の結婚をもって、ハッピーエンドで幕を閉じることができた。
少しでも選択肢を間違えたら「バッドエンド」になってしまう物語において、一度目のプレイとしては、かなり良い結末を迎えられたと思っている。
「100日後に死ぬワニ」と、いうマンガが過去に流行ったが、さながら「100日後に再婚する元妻」という小説の最高のエンディングだ。
空を見上げると、紫色に染まった、ラベンダー色の空が広がっている。
彼女は私のそばにはいないけれど、どこかで同じ空を見ているのだろうか?
ラベンダーの香りのように、安息の日々が彼女に続いていってほしい。
心からそう思った。
私は彼女に祝福のラインを送り終えると、彼女との思い出をそっとブログにしまい、再び日常へと戻っていった。
(完)
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あとがき
シーズン3までお読みいただきありがとうございましたー。
ここまで全部読まれた方は、熱烈な離婚ブログ信者ですね。(笑)
今回は、「その後」メインであまり見せ場などもありませんでしたが、いったいどうなったのか?と、もやもやしてる方には一応スッキリできる内容ではなかったでしょうか?
ちなみに、このブログは、名称・地名・数字・時系列などについては加工してますが、起こった事実については、すべて実話なので、あの二人はガチで先日結婚しています。ぜひ皆さんも祝福してください。(笑)
また、今回は、私の好きな関西地下アイドル界隈の要素を少しだけ盛り込んでいます。
特に敬愛するスーパーアーティスト、勿忘うたさんの曲については、結構よせてみました。ただ、私が寄せなくても、ほぼほぼ私の物語に一致するんですよね。
最近「ハロー、ハッピーエンド」という歌を出したのですが
"目の前にあるもので
僕たちは精一杯だったな
途中で筆を止めた
長い長い日記を開いた
あの日に今 戻れたなら
あんなことは言わなかった
答えが今ならわかるのにな"
って、歌詞。ピッタリすぎません?
完全に私の生活を覗いてますよね?
まさか、、、神様?(笑)
もしもこの小説が映像化されたら「ブレインド」が挿入歌で「ハロー、ハッピーエンド」をエンディングに使用したいと思ってます。(笑)
さて、そろそろお別れの時間が近づいてきました。
あの二人が結婚するまでは、まだ続きを書く余地がありましたが、これからはさすがにもう書くネタがありません。
あえて言えば、ともえちゃんが、再び離婚して彼から慰謝料をもらうときの話くらいですかね?(笑)
いつくらいになりそうか?って???
たぶん…2年後くらいだと予想してます。(笑)
とりあえず彼女からの話を聞いている限りは、まだ彼はともえちゃんのことを理解してないと感じます。
彼は「結婚した」と思ってるみたいですが、実は「猫を飼った」だけなんですよ。
彼女のことは、いつ、どこで、何をしても受け入れるしかないんです。
どんなわがままでも、全部聞いてあげるしかないんです。
じゃないと、どこかへ行っちゃいます。
なぜなら、彼女はとっても可愛い猫だから…
まぁ、これは私の解釈なので、今後二人がどうなるかわかりません。
また、2年後くらいに一緒に答え合わせをしましょう。
その時まで、お元気で。(o^-^o)
おまけ
ハロー、ハッピーエンド/勿忘うた
https://www.youtube.com/watch?v=5NpZW0Sr3UI
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