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③第5話:一人暮らしと「婚姻関係の破綻」

彼女の不倫相手については「彼は婚姻関係が破綻している」(だから私は悪くない)と、妻から何度か聞いていた。

・彼は結婚生活の初期の頃から相手側の拒否により夜の関係がなくなっている。

・子供が欲しい彼は、早期から離婚したがっていた。

・ここ4~5年は、外で自由に飲み歩き、月に何度もホテルで外泊をしており家に帰らない日も多い。


要点だけ聞くと、よくある不倫の見本みたいな理由だったが、彼が離婚したいという意思は本物のようだった。

夜の生活が無いことが離婚理由になることはわかるが、彼はおそらく10年近くは婚姻関係を継続していることになる。

夫婦にはそれぞれのカタチがあるので、そういうカタチに収束したのであれば、それを破綻と呼べるのか?と、個人的に思っていたが、表面上はどうあれ、中身はやはり破綻していたようだ。


彼の妻側との離婚協議で初めに提示された慰謝料300万円については、彼はその場で承諾のサインをして帰ってきたらしい。

しかも、彼が手持ちとしてお金に余裕があるのであればわかるが、出せる算段もないのにサインをしている。もちろん、うちの妻に相談もなかったようだ。

これでは、うちの妻と再婚することが優先というよりも、「今の妻と離婚する」ことのほうが優先度が高いように感じてしまう。


そもそも今回の件について、彼の取った手順は、彼の妻を蔑ろにしすぎており、非論理的だ。

・正式な離婚をする前に不倫をする

・離婚協議前から同棲開始

これでは、通常の慰謝料に加えて多額の金額が加算されるのも当然だろう。むしろこうでもしないと離婚できない。と、いう強い意志さえ感じる。

慰謝料が高額になると知りつつも、不倫に踏み切った彼の心情は、私の妻への愛情だったのだろうか?それとも、前の妻と心底別れたいという決意だったのか?

多額の慰謝料の請求という点でも、今後二人は二度と食事に行くことがない別れ方。と、いう点で見ても、私たちとは正反対の位置にある離婚の仕方だった。

恐らくは、こういうカタチの離婚が世の中ではスタンダードなのだろう。どちらが正解かはわからないが、もうひとつの離婚の結末を知った私は、改めて離婚や、人間の恐ろしさを感じた。


「それで、慰謝料の支払いはどうするの?」

妻を心配して話を聞いてみると、それらはすべて彼の実家から借りるということだった。

当然だが、彼は慰謝料の支払い以外に新居のための引っ越し費用や、家具などの購入もあるため、妻との生活をスタートするために、合計500万円近い金額が借金として加算されたようだ。

<マイナスからのスタート 舐めんな!>

と、いう歌詞がアイドルソングにあるが、彼がこのセリフを言うのであれば、確かに真実味がある。


同じ男の立場として彼を見るならば、私は彼を心底尊敬する。

例えば、今私が通っているアイドル現場で、500万円支払えば自分の「推し」と結婚できますよ。と、言われても正直私はためらってしまう。

結婚が確定したとしても、もちろんそれで終わりではない。その後も一方的に扶養する費用が必要だし、子供の世話、両親の介護など、簡単には乗り越えられない問題がいくつも出てくる。

離婚した今だから思うが、結婚とはなかなかに大変だ。私は次に結婚するときは、そんなに安易に踏み切れないと思っている。こういう観点で見れば、どう見ても、私よりも彼の行動のほうが彼女を愛していると心底納得した。


ちなみに私の妻の尊敬するところは、この費用について1円も出していないところである。不倫というのは双方の共犯関係なので本来はお互い助け合って乗り越えていくべきだが、おそらく彼女にはそういう視点はない。

私がよくいくメイド喫茶・コンカフェ界隈では、お出かけの最中にお客さんに高いプレゼントを買わせた。お客さんに口実作ってお金を借りて、何十万円とお金を借りている。と、いうような怖い話をよく聞くが、私の妻の話と比べると、そんな話が可愛く思えてくる。

もっと怖い大人の世界は、世の中にいくらでもあるようだ。


とりあえず離婚の話が一通り終わったので、今度は彼女の新生活を聞いてみた。

さぞ、幸せそうに話すのかな?と、期待していたところ、彼女は急に、目に大粒の涙をためて、声を詰まらせながら、話し始めた。

「私、、、もっと、うまくやれなかったのかなって…」

離婚したことで、彼女の涙を見ることはもうないだろう。と、思っていたのだが、彼女は久々の再開でも私の前で涙を流している。

離婚した今の私には、彼女の頬に差し出す傘は、もう持っていなかった。。。

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