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②第1話 離婚後の「不思議とこれから」


2021年4月1日。

エイプリルフールの日に、私は「嘘」みたいな離婚をした。

これが全部嘘になったらいいのに。と、思っていたけれど、離婚の事実は、現実で、変わりようもなかった。


離婚というとネガティブなイメージが思いつくかもしれないが、あながち悪いことばかりでもない。


例えば、食事に行っても値段は一人分で済むし、テレビのチャンネルは、いつでも自由に選択できる。ご飯の時間を合わせずに先に食べたって怒られないし、ベッドだって、両手両足を伸ばしてノビノビと独占することも可能だ。

そうだ。離婚した私は自由だ。

これから、自分の気持ち次第でなんだってできる。


朝、目を覚ました私は、景気づけに思いっきり手足を伸ばした。

すると、なんだか左足に柔らかい物体を感じる。

私の隣には、ひとりの女性が無防備な寝顔で横たわっていた。


これが、私の新しい恋人だったら衝撃の展開だが、そんなドラマは現実に起きるはずもない。

私の横に寝ているのは、離婚したはずの「元」妻だった。

そう。妻は離婚しても、なお私の家に住み続けていたのだ。


このことは、もちろん事前に知っていたので、驚いてはいない。

離婚届を出しに行く途中で互いに「実感が無い」と、言っていたのは、このためだった。

離婚届を出した後も、私たちの「同居人生活」は、続いていた。


自分は家を出ていかないけれど、離婚だけは自分の希望で成立させる。

この事実を一般の人がどうとらえるかはわからない。

ただ、シーズン1のブログを読んだ人はわかってると思う。

妻は、「無敵の人」なのだ。

妻が妻であることは、もう変えようのない事実なのでなんとも思っていない。


ただ、妻の不倫相手は、いったい何を考えているのかわからない。

もしも、妻を遊び相手としか見ていないのに、離婚を容認しているのであれば「ヤバい奴」だと思うし、妻と本気で結婚しようと思っているのに、いまだに新居を用意できないのであれば、「ショボイ奴」だと思う。

結論を言えば、不倫相手は、いまだ新居の契約ができていなかった。


元旦那とはいえ、自分の将来の妻が他人と暮らしていることを何とも思わないのだろうか?

個人的には思うところがあったが、残念ながら目の前で寝ている妻は、もう他人である。私にどうこうできる立場でもないので、私はいつも通り先に起きて、仕事場へと向かった。


4月になってから、私は元妻へのスタンスを迷っていた。


離婚するまでは、旦那の責任として、妻が幸せに暮らせるように努めるのはまだわかる。


ただ、離婚してからも彼女に優しくし続けることは、本当の「やさしさ」なのだろうか?

ここは心を鬼にして、彼女が早く家を出て行きたくなるように振る舞い、彼と幸せな暮らしを早く実現させたほうが「やさしさ」なのではないだろうか?

ただ、そこを無理強いしてしまっては、また昔に戻ってしまう。

「北風と太陽」の話があるが、北風も太陽もダメな場合、いったいどうすればいいのだろう?


一休さんに助けてほしい!と、私が難しい顔で悩んでいると、妻が珍しく料理を出してきた。


「ナスのトマト煮込み。ナス、好きだったでしょ?」


「す・・・好きだー。結婚してくれー。」


オタク特有の口癖で、嬉しいことがあるとすぐに「結婚」を口走る。

私は、元妻と結婚してからも、

「結婚してくれー」

が、口癖だった。


そんな私を見て妻は一言、

「もうしてます。」

いつも冷めた表情だけど、時折、少しだけ嬉しそうだった。


しかし、離婚後の、今は状況が変わっていた。

「結婚してくれー」

と、叫ぶ私。


「・・・・・・」

急に答えに詰まる、元妻。


この瞬間、何かが違うと感じた。


いつもの小さな日常のつもりだったが、離婚したことによって、その小さな日常は、いつのまにかなくなってしまっていたのだ。


離婚なんて「カタチ」だけのものだと思っていたが、私たちの関係は、小さく、でも、確実に変わっていた。

次回、第2話 離婚後の「本当の自分」

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