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第10話 離婚と「こどもと直接対面」

「もし、私が別の男の人と子供を作ったとして、その子を育てられる?」

離婚事件が起こるだいぶ前のある日。

車の中で、妻が急に聞いてきた。

妻は、時々、突拍子も無い質問をする。


「女の子だったらいいかなぁ?女の子は可愛いから。一流アイドルに育てよう。プロデュースは、僕に任せて!」と、私は、おどけた感じで答えた。

脈絡のない話だったので、なんでこんな質問をするのか不思議に思っていた。


その後、彼女の友人の中に、旦那さんが奥さんをものすごく愛していて、何をしても許してくれそうな夫婦がいる。という話があった。

その旦那さんは、別の男の子種でも、好きな人の子供であれば、喜んで育てると言っているらしい。

妻は、この話に真剣に答えない私に少しガッカリしたそうだ。その時は気づかなかったけれど、その時、妻は私の反応をよく見ていたらしい。


離婚や結婚の話をする時に、必ず「こども」の話は出てくる。

結婚して長く経つと、周りからの期待や圧力も自然と高まる。

うちの母親は、「今は子供がいないのも当たり前だから。気にしないで大丈夫。」などと、逆にこちらが気になるような言い回しをしていた。


私自身は、子供が大好きなので、子供は欲しかった。

最近、私の知り合いが3人目の子供を妊娠したと聞いて、かなりうらやましく思っている。

しかし、自分の子供はもちろん、他人の子供を実際に育てられるか?と、いうと、かなり話は変わってくる。

子供を育てることの労力は、かなり大変だと聞いているし、ひとりでも大学卒業まで面倒を見れば、経済的な面でも、かなり苦労することは知っている。

自分の子供でも大変なのだから、いかに好きな人の子供といえど、そう簡単に育てられると断言できるものだろうか?虐待事件は、養子や連れ子のほうが多いのではないだろうか?


また、うちの妻の性格を見ていると、子育ては難しいだろう。と、個人的に感じていた。そもそも「できる/できない」の前に、何より仕事や外に出ることが大好きそうだったので、子供は作らないほうが良いだろう。


私は、それが「彼女が」幸せになる絶対条件だと思っていた。


そして、それを彼女も理解しているのかと思っていた。


しかし、真実は、そうではなかった。


具体的な離婚の日付が決まり、その日に向けてひとつひとつ確実にやることを進めていく私たちに比べて、不倫相手のほうは、離婚に向けての話し合いは、いまだに何も前進していなかった。


相手方は、いったい何を考えているのだろう?

業を煮やした私は、ある日、不倫相手と直接話し合うことにした。


不倫している人間と、不倫されている人間。

二人が出会ったらどうなるか?

ドラマや、マンガのような熱い展開を期待するかもしれないが、そんなことは、まったくなかった。

二人とも、よい年齢をした社会人である。

いたって冷静なトーンで話し合った。

相手方は、最初は緊張をしていた様子だが、慣れてくるうちに、次第に本音で話してくれるようになった。


最初は、本題を切り出さずに、世間話に終始した。

大学時代の話、幼少期のゲームや遊びなどの話、仕事の話。

電話での会話を聞いているときには心配をしていたが、実際の彼は、非常にウィットに富んだ、面白い会話のできる人間だった。

私と年齢が近いこともあり、不倫相手同士が仲良くしゃべっている姿は異質だが、あっという間に小一時間ほど話し込んでいた。


冷静に考えればそうだろう。


不動産営業は、人材業界に並ぶ、ハードな世界である。

相手や状況に応じて、場に合わせた最適な会話を展開することは決して難しくない。


ほどよく場があたたまってきたところで、私は本題の質問に入った。


「うちの妻と真剣に結婚する気はあるんですか?」


当たり前だが、答えはYESだった。


もしもここで「NO」などというものなら、それこそ三流ドラマの乱闘シーンが始まってしまう。


彼が今の奥さんと離婚して、再婚を目指していた一番の理由は、「子供が欲しい」。それが大きかったということだった。


私は、あんまり腑に落ちなかった。

なぜなら、不倫相手は、見た目も良く、学歴も旧帝大クラスで、何より年収も平均値よりだいぶ高い。

彼が望めば、表現は悪いが、うちの妻よりも若い相手を探すことは、いくらでも可能なはずだ。

気づけば、うちの妻も30代中盤の年齢となっている。

出産することは、不可能ではないが、色々とリスクも考慮しなくてはいけない時期に入ってくるだろう。

正直、「子供」という面だけを考えれば、絶対に他の女性を選ぶほうが良いと思っていた。


しかし、彼の素晴らしいところは、「子供」だけに限っていないというところだった。

彼は、当然ながらうちの妻のことも愛していて、子供ができないのであれば、それはそれでかまわない。と、いうスタンスだった。

実際にそう思ってるかは、今後の行動で判断するしかないが、そう言い切る以上は、彼に自分の妻を任せようと思った。


妻も、「あなたの子供が欲しい」と、言われて嬉しかったらしい。

私は、心底、驚いた。

あれだけ自由に暮らしていた妻が、仕事も、お酒も、自分の行動を制限される提案を受け入れるなんて。

私が6年間で見つけることができなかった、妻の新たな一面を発見して新鮮だった。


この前飾ったばかりだと思っていたチューリップ。

気づけば、食卓には、チューリップの花びらが一斉に散らばっていた。

もし、また新しい花を飾っても、花はいつか散ってしまうのだろう。

それでも、花を飾り続けることに意味はあるのだろうか?


離婚の日まで、気づけば2週間近くとなった。

私は、私の中である決断をしながら、食卓の花びらを片づけた。


次回 第11話 離婚と「旅行とウェディングフォト」

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