ちっちゃな家を建てたんだ
二人は決して許されない恋に落ちた。
例えば、許されない恋の数がその他の恋の数を上回った時、そこで何らかのパラダイムシフトが起こるんだろうか。どうだろうか。
ある時、僕ら二人の恋の許されなさを危惧したある学者が、未曾有の恋に落ちる確率を計算して言った。
僕らのそれは「恋に相違ない」と。
💘 💘 💘 💘
君と僕の特別な回線にて
交信できる。
許さない恋だから今日もお互いを捜索中だ。
君は空から、
僕は地上から……。
でも今日は特別、僕から君にお知らせがあるんだ。
きっと気に入ってくれるはずさ。
「ジュリエット60、ジュリエット60、聞こえるか」
「ロミオ44、よく聞こえるわ」
「ジュリエット60、目を閉じてよく聞いて欲しい」
「ロミオ44、了解」
「丘がある、いいかい、小高い丘だ」
「ええ、丘ね」
「そよ風。花の香り。陽の光」
「ロミオ44、あなたは今そこにいるのね」
「ジュリエット60、昔観た映画のセリフにあったんだ。それはこんなさ。“この世の中において男の価値なんて皆無だ。そして世の中はたった一つだ”って。なあジュリエット60、君はどう思う。僕は今、丘の上さ。そしてったったひとつのその世の中を見下ろしてる」
「ロミオ44、私はただ信じることだと思うわ。それだけだと思うわ」
「ジュリエット60、僕は君を信じている…だから君だけに…、…、…」
交信乱れる。
「ロミオ44、最後が聞き取れなかったわ。繰り返して」
「…教えてあげ…僕は、…に、…ちっちゃな……」
「ロミオ44、あなたはいったい今どこにいるの?」
交信途絶。
ジュリエット60、いいかい、目を閉じて聞いて欲しいんだ。
僕は先に逝って
君を待ってる。
丘の上。
そよ風。花の香り。陽の光。
そこに僕は
ちっちゃな家を建てたんだ。
終
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