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Merry フェネック Xmas!
クリスマスだったことに帰り道でようやく気づいた。
朝帰り。イブの夜に死ぬほど働いただけだけど。
街はこれから寝る感じに寝静まっている。きっと皆さん楽しんだんだろう。
雨も夜更けも雪も何も変わらなかった。僕だけはね。
ボロアパートの階段の手すりが冷えた上に錆びてる。触った手がクリスマスじゃない匂いになった。
僕がドアを開けて家の中に入ると(……“ほうほうのてい”っていったい誰が考えたことばなんだろう……語呂が良すぎて悪い。まあいいや)、今年で三歳になるうちのフェネックがM2ライフルを構えて待っていた。銃口が僕の眉間のところにピタッとむいている。
はっきりいって僕でなくても、誰でも疲れるシチュエーションだと思う。
僕は小説には“やれやれ”って使わないことにしてる。書くだけで疲れるから。
とにかくクリスマスの朝に僕はジョン・マクレーンするつもりは1ミリもない。
元々うちのフェネックは武闘派なところはあったけど……ついに飛び道具かよ……。
僕は玄関で2足で990円だったサンダルを丁寧に脱ぎ捨てると、そのあとで両手をあげた。
もちろん、降参だ。
「命が惜しいか?」
片目を瞑ったフェネックは体の大きさと釣り合わないライフルの先を上下させながら言った。
「ああ、できればね」
どうせなら楽しいクリスマスの後に死にたい。
それに、誰だって自分の飼っているフェネックに銃殺されたくなんかない。
そういえば、死を超越するにはいかに死ぬかということしかないという一説をある本で読んだ。そしてそれを書いた人に深く同情した。
── 私情で詩情、または至情。
「うるさい!!必要な事以外しゃべるな。さっさと壁に両手をつくんだ!!」
雑な会話ってきっとこういうことなんだろう。
フェネックは銃の先を動かしてあれこれ指示ってくる。散々こき使われて帰ってきたのにこれかよ。それもこれもフェネックのために色々買わなくちゃだからなのに。
「喋るなってなんだよ。君が訊いたんだろ?っったく」
聞こえないように舌打ちする。
フェネックは「さあ、早く早く」と僕をせかせた。大きな耳のわりに、ひとの話をまるできかない。
いっそ太陽系外の何かと通信できそうなほどどでかいパラボラアンテナとその耳を取り替えてやろうかと思ったりする。
「ところでそのM2ライフルはいったいどこで手に入れたんだい?」
念のため僕は壁を向いたまま訊いてみた。保護者責任というものがある。昨今は銃刀法だって厳しくなっているのだ。
フェネックは入念に、玄関の壁に手をついて背中を向けた僕の体にペタペタさわってボディチェックしながら「ふん」とか「へんっ」とか言っている。さらに「we got him」とか誰かに無線で連絡してて意味不だ。
「もうちょっと低い姿勢になれ。上の方とか届かないだろうが、考えろ。高等なんだろ人間はよ、へっ」
「はい、はい。……で、僕の質問に答えてくれないかな」
「何の質問だよ?だいたいのことはオレちんの公式ホームページに載ってるはずだがな」
そんなものあったんだ。知らなかったよ。
「じゃあ、もう一度質問させてもらうよ。そのライフルを……」
「つくったのさ、オレちんが」
「君が!?」
「うんだ、うんだ。純粋な密造だ」
「──そうかい……。そりゃあ、ご苦労様。くれぐれも暴発には気をつけてくれよな」
「人生は暴発みたいなもんさ。ちがうか?」
フェネックが銃の先を僕の背中にグリグリと押し付けながら言った。
おそらくその顔はドヤってるに違いない。フェネックのドヤ顔ほどドヤってるものはない。もちろん僕の感想だ。
「芸術は爆発だって言葉なら聞いたことあるけどね……」と僕。
「オレちんは聞いたことないね」
「はあ、そうでございますか」
「暴発した人生こそ人生さ」
「君が正しいよ、ホントに」
結局みんなそれぞれに正しくてそれぞれに過っている……。僕はそのことに最近になって気づいた。
まあ、それはともかく、僕は一刻も早くシャワーを浴びたかった。
今日はひどく汗をかいたから。
「早く出せ?どこだ?」
「何をだい?」
「決まってるだろオレちんへのクリスマスプレゼントだ」
「あー忘れてた。でもちゃんと買ってきたよ、今出すから」
「動くな!動かずに出すんだ!」
無理っすよ。『ああ、いつも上司に規則を守れって言われてるよ』というジョン・マクレーンのセリフでも出れば良かった。
まだ当分、この悪徳政府軍きどりのフェネックの熱はおさまりそうもない。
あーあ、腹へった。
きっと今頃近くのコンビニのレジで募金しながら談笑しているパウエル巡査部長みたいな人がこの異変に気づいている頃だろう。
そうあって欲しいものだ。
Merry Xmas
じゃがいもの冷製ビシソワーズみたいな僕の朝はこれからさ。
終
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