連載小説 【近未来社畜奇譚】 A I に負けないようにガチで働いたら生産ラインがバグって勤務先が壊れました (第2話 /全22話)
※この物語は、ある小学生が社会科見学に行ったという事実以外全てフィクションです。ご安心ください。
【前回のあらすじ】
第2話 メタ集合場所
ボク専用の集合場所まではなんとか来れた。
人通りの多い道に囲まれた小さな公園みたいなところだった。今のところボクひとりみたいだ。
公園内の遊具にはやたらと黄色いデンジャーテープがぐるぐる巻かれていた。幽邃な庭園とはまるで真逆だ。
近くに座りやすそうなベンチがあったけど、立ったままでいた。そのほうが集合したひとに見えると思った。
快晴オブ快晴。集合日和だ。
しかしながら、まだ、ここが誤った集合場所の可能性もある。念のため派手なスニーカーを履いてる。
行き交う人の中に小学生を探した。みんな洋服を着ていて、和服の人がいると目立った。
だいたいの人たちが“VRながら歩行”のひとたちで、『ながらVR禁止条例』に本当はひっかかる。見渡しても、ながらゴーグルの小学生はなかなかみつけられない。大人はいつだって子供より先に条例を破る。
そこへやっとこさひとり現れた。ボクは最初それがケイイチじゃないと思った。
なぜかというと、仲のよい友達の顔が『判別できない症候群』がこのごろ子供たちのあいだで流行っていて、ボクにもその初期症状がみられると診断されかけていた。友達かどうかを判別してくれるAIが無料で配布されてから症状がひどくなったように思う。
「じゃーん、ぼくでしたー」と言って、近くまできたケイイチは容姿いじり防止用の顔加工装置のスイッチを切った。
するとみる間にケイイチの特徴を持った顔になった。教室では義務化されてるこの装置はどんな顔でも全く特徴のない顔に加工してくれる。
「なんだ、よかったよ、ケイイチで」
ボクは友達のことはまだ自分で判別できる自分でいたい。
すぐにお互いの『しおり』を交換して読んだ。ケイイチもそうとう読み込んでいるとお見受けした。
「おやつどうした?」とボクはきいた。
ケイイチは頭の上に浮くタイプのふわふわリュックを持ってきていた。たしかに混雑した場所ではすごく便利だ。
「五百円分にしたよ」とケイイチは笑顔で言った。
「了解」
おやつの件はホッとした。今朝はそのことが国家を揺るがしていたのだ。
ベンチに二人で座った。
「そもそもこのベンチが二人までしか座れないタイプのだから、もうほかに誰も来ないのかもしれないよ」
ケイイチはまるでボクがそう思うだろうと思うことをときどき言う。ケイイチとボクは多分まつげの長さがいっしょだ。
「了解」とボクはうなずいた。
平日だったけどサラリーマンさんの姿はほとんどなかった。ある理由から世界中でサラリーマンの数は激減してしまっていた。でも不思議なことにサラリーマンがいなくなっても朝のラッシュは変わりなかった。
ただなんとなく歩いている人が増えてしまったためだ。
ひとつには、科学が“生きる”ということの本当の理由を大まかに解明してしまったせいもあるんだろう。
ボクらが社会科見学の日の朝にワクワクして目覚めるように、社会も毎朝そうであればいいなと思う。
予想通り、集合場所にはほかには誰も来なかった。当初から、少なくとも担任の先生は来ないだろうと思った。担任の先生はそれぞれの生徒が担任マッチングアプリで選ぶため6年間マッチしないこともざらだ。
『家に帰るまでが遠足だグッズ』をちゃんと当日身につけていれば、それを言う先生もとくにいらなかった。
ベンチに座っているボクらの背後には軍事パレードができそうなくらい大きな道路があって、バスが一台停まっていた。ずっとそのことに気づかなかった。大きなタイヤで、バスの長さは街路樹から次の街路樹までのあいだくらいの長さはある。車体に広告なし。小学生専用と書かれたドアが開いている。
ボクとケイイチは互いにうなずき合ってから、ベンチを立って振り向いて、そのままベンチを飛び越えてからバスに乗車した。自動運転なので運転手はいない。
テクノロジーが進みすぎて、『スマート〇〇』との呼び方がもうダサくなってしまって、スマホも今は『ホ』か『ス』だ。
ケイイチは座席に着くなり、「あのさ、完全自動運転社会になってからというもの、小学生の車酔いが減ったっていうデータがあるの知ってる?」と言った。
「まだ知らない」
ボクらはやっぱり一番後ろの真ん中の席をとった。
ボクは荷物を前に抱え、ケイイチは頭の上で浮かべていた。
バスが走り出した。
大昔のドラマとかだと、ここで振り返ると後ろから誰かがダッシュで追いかけてくるところだけど、もう今の時代にそれはないのだ。AIがそういう運行の妨げとなるドラマチックなすべてのものを計算して、判断した上で発進しているから……。
それでも一応、後方を窓から見てみた。
なぜかわからないけど、何度もその景色を見たことがあるように感じた。
つづく