汎用ラブ (短編少年小説)

今日はご飯をおなかいっぱい食べるのはやめた。

ぼくとケイイチは外遊びで殆ど同時に同じ場所を怪我した。

君がピンチなら

すぐに助けに行く。

世界中がピンチなら

ぼくとケイイチが手分けして何とかできると思う。

今日はお菓子を全然食べないでいられた。

ぼくとケイイチは内遊びのとき、殆ど同時に悲しくなった。

2人ともには別々の違った“まだ見ぬきみ”がいて、でもどこかで似ていた。

怪我のところからばい菌が入るといけないと思った。

君が悲しいときは、月も同じように見えた。

ぼくとケイイチはすぐに町に出て、いつものものを探した。

──汎用ラブ。

非売品だから君もきっと気に入ると思う。

汎用ラブは大人の手の届かないところにあって

大人の見えにくい色で光っていて

大人に聞こえない音を出している。

だからぼくらはいつもなんなく手に入れることができる。ちょうど手のひらサイズ。

転売ヤーの人もこれだけは転売できないと言ってた。

例えば路地裏で、例えば空き地で、例えば公園の池で、汎用ラブは見つけることができる。

手で掴む時はタイミングがあって、「チャーシューメ〜ン」の声がいる。

チャー  シュー  メ〜ン

今日もいっぱい集めることができた。

これはみんな、まだ見ぬ君の分。

そんなぼくらを

多くの人は馬鹿にしたし

それよりもっと多くの人が

ぼく達に無関心だった。

でも

君がピンチなら

すぐに助けに行くし

世界中がピンチなら

汎用ラブで

ギリギリ何とかなると思う。

でもまだ家まではちゃんと持ち帰れたことがなくて

最高でもまだ、みんなのママがいつもおしゃれしてるとこのお店までだった。そこでふっと消えちゃう。

もしもいつか、完全に汎用ラブを持ち帰れたら

いっぱいに増やして

凍らせて

保存しようと目論む。

だからみんなはもうちょっと我慢して欲しいよ。

「汎用ラブ、汎用ラブ」手拍子付きでリズミカルに運ぶ。

来年も

「汎用ラブ、汎用ラブ」

その先も……。

ぼくとケイイチはこの頃ちょっと疲れ気味で

結局うまくいかなくて

全部投げ出しそうになって

そのことで少しケンカして

でもぼくもケイイチも

気持ちはひとつだから

明日のご飯もおなかいっぱい食べるのはやめた。

「汎用ラブ、汎用ラブ、汎用ラブ……」

もしも君にこの声が聞こえたら

ぼく達と“まだ見ぬ君”が

殆ど同時に生きてるんだってことなんだと思う。

君がピンチなら

すぐに助けに行くし

もっと安全な形で

汎用ラブを提供したいって思う。




                        終

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