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素人推理と魔法とアーティファクト 第2話

【第2話 ギャラリー殺人事件 中編】

〈前回/前編〉

〈中編〉

 リアさんに解決役のご指名を受けた。理解はできていないが、こんな自分にできることがあるなら、そのまま流されたいと思う。胸が高鳴るのは何故だろう。不謹慎だと思いつつも、欠けていたものが埋まるような感覚があった。
 アマネさんはそんな自分の反応を見て、うげっと舌を出して少年と離れていった。今は2人でお菓子を食べている。
「自分、特に秀でたところがない社会の金魚の糞ですが、警察が来るまでは現場を荒らさない程度に誠心誠意頑張らせていただきます」
「あらら、考えすぎだよ。でも、推理の組み立てに役立ちそうだね」
「いえ、フォローさせてしまい申し訳ありません……」
 リアさんが距離を詰めてくる。誰かに聞こえないようにであろうか。近い。うあ、と声が漏れる。ん?と視線を向けられ、慌てて取り繕った。
「あ、ああ。う、え、えっと、殺人とかとは関係ないんですが、先に魔法使いとか魔術師について教えていただけませんか……?」
「確かに。前提として大事だし、良い質問だね!」
 手汗で滑らせかけつつ、スマホを起動してメモに備える。ちょっと長くなるかも、と一言おいて、リアさんは穏やかな口調で話し出した。

「虹の色の数を問われたとき、日本では7色と答えるけど、それは絶対ではないよね? 国によって、2色だったり、6色だったり。それは観測した人の言語と認識の影響なのは分かる?」
「はい。色をカウントするための言葉があるかどうかで、色の数の認識が変わる。有名な話ですよね」
「そうそう! 魔法に関する大元の考え方は、虹を世界に、その虹を観測する人を世界を観測する人に置き換える感じなの。例えば、私が腹部を刺されたという事実があるとき、そのことが事実としてあるのはそれを観測した、認識した誰かがいるから、ってこと」
「あ、ええっと……自分たちの住む世界は誰かの見る夢だった、的な?」
「大まかには合ってるかな〜。で、だよ。魔法は観測者、魔導師って言われてる存在に働きかけて事実を書き換えたり創ったりする行動。魔術は魔導師の認知なく行った事実の捏造、詐欺っていうのが基本だね」
「魔法は司書である魔導師さんがきれいにつなげた本で、魔術は素人がセロテープでツギハギにした、みたいな……?」
「面白い例えをするね!」
「あっ、は、話の腰を折ってすみません!」
 クスクスとリアさんは笑う。気分を害したわけではなさそうだ。よかった。
「超能力者っていうのは?」
「世界の観測……というか、現実への働きかけを限定的な範囲だけ行使できる能力を持ってる人のこと。魔法みたいな観測者からの承認も、魔術みたいな不安定さもない。ただ、ほんっとーに限定的で、ついでに言うと情緒不安定な人が多い」
「う、あ、すみません」
「責めてるわけじゃないよ。魔法使いとかも異常者のくくりであるのは確かだし。ごめんね」
「謝らせてしまって申し訳ありません! 親にも弟にも嫌われる友達が一人もいないクソ人間なので当然の評価と言いますかなんと言いますか」
「確かにシモンくんはなんとなく不安になる空気をしてるからなぁ」
 そうそう! 気に入らないってよく言われた!
 リアさんが自分を買い被ってるんじゃないかと思ったけれど、違う。ふつうに慧眼だった。自分ほんっとーに見る目がない!
「シモンくん面白いし、私は見ていたいと思うけどね」
 それは大丈夫なのだろうか。
「他に知りたいことはある?」
「はーい! なんでびょーいん行ってないの?」
 ピンと手を挙げて会話に入ってきたのは、アマネさんだった。

 あれ、と顔に出ていたのか、アマネさんは、ああと言って、少年については父親が来たと何処かに走り去ったことを伝える。
「鮎川勝男しょーねんは~、二人にもサヨナラって言ってたよ。というワケで、手も空いたし、虚言癖のある人を止めにきたんだ〜! ねえ、大丈夫だった?」
「騙っているのはそちらでしょうに」
 目が笑っていないアマネさんと、朗々としたリアさん。なんで初対面でこんなに仲が悪いのだろう。リアさん曰く魔術師?だから、魔法使いとは性質的にそりが合わないのか。それとも一目惚れならぬ一目嫌いなのか。ああでも、自分を助けてくれたときはそこまで仲が悪くなかったような。
「いや、仲悪いっていうかさ。このお医者サンにかかった方がいい人のことを信じてるオマエってなんなの?」
「見るからに卓越してますって雰囲気のリアさんの言うことを、虫けらの自分が信じない方がおかしいので。それに自分は無知だから、自分が知らないだけだと思ったし……」
「カウンセリング行った方が良いよ」
 おちゃらけず、真剣な顔で心配される。自分にかけてもらう気配りが勿体無いほど良い人だ。
「魔術師さんはなんで否定するの?」
「現代社会に魔法が云々言ってる方が可笑しいんだって! 信じてる方も!」
「でも、うちの大学の理系の教授が、法則を作った神様的な存在を信仰してましたし……」
「それは法則に魅入られて人生捧げてるやつの言うことだから! ボクの意見は一般論!」
「まあまあ、落ち着いて」
 息を荒げるアマネさんをリアさんが止める。誰のせいだ、と恨めし気な視線で睨んでいたその時、遠くから、野太い悲鳴が聞こえてきた。

「夫婦そろってってことはさ。怨恨殺人っぽくない? シモンくんはどう思う?」
「う、うぇ。あ、えっと、めった刺しの方が計画性がない犯行って話もあるからわかりません……」
「あー、一度刺して引くに引けない的な?」
 吐き気をこらえながら言う。怒鳴りつけてきた……先ほどまで元気だった老人は、奥の展示室でめった刺しにされ、出血多量で死亡していた。
 強く押さえつけられたのか、腕と腹にあざができている。死体をまじまじと見る経験をするとは思わなかった。グロい。
 悲鳴を聞いて少年、鮎川くんを除いた全員は、現場に自然と集まっていた。……鮎川くんがいなくてよかったと思う。こんな凄惨な場面を見せるわけにはいかない。
 カップルとおじさんを中心に部屋全体がピリピリしており、それを部屋に一つだけ飾られている人物画が見下ろしているようだった。
「お腹を足で、左手で右腕を抑えて固定してから、肺の辺りから刺したってところですかね……だったら確実にコイツを殺す意思っていうのがあったかも」
「冷静だなぁ。もっと取り乱すかと」
「リアさんの方こそ、平然としてますね。自分は何か考え事をしてないとゲロ吐くから言っただけです」
「私、刺されたことがあるし、恐怖心が麻痺してるのかもね」
「刺された……?」
 聞き捨てならない話が出たが、しゃべっていたのが気に入らないのかカップルの男の方が睨んできたので口を閉じる。何か話すようだった。
「オレとユキちゃんは帰るから、ケーサツが来たらお前らで何とかしろよ」
 吐き捨ててから、ユキちゃんであろう女性の腕を引く。女性はわずかに顔をしかめるが、抵抗はしなかった。その行動を制止する声一つ。
「待ちなさい。なぜ警察を待たずに帰ろうとする。後ろ暗いことでもあるのか?」
「は? 何言ってんだよオッサン。殺人犯と同じ空気吸いたくねーんだよ。分かれよ」
「被害者の2人を殺せる体格の人間はこの中にキミとそこの男しかいない」
 そこの男、というくだりで自分が指を指された。冤罪2回目、とリアさんが苦笑する。なんで、と死んだ目でこぼすと、体格と雰囲気?と返された。
 体格。何かが喉に引っかかる。
 自分は若く、体格も平均身長はあるが、同じかすこし大きいくらいある人を、老人とはいえ押さえつけられるとは思えない。
 おじさんもできはするだろうか怪しい。言い合いの時もたまに震えていたし、声も張り上げた時にかすれるところがあった。自分と同じく精神力がないし、体力も持たない気がする。
 かといってできそうな彼氏さんは、この場に言える全員に言えるが、動機がない。通り魔と仮定しても、デート中にするか、という話になる。
「体格の話すんなら、なんで自分は除外してんだよ。てめぇも殺せんだろーが」
「殺したところで私にメリットはない」
「オレもねぇよ! てめぇが営業とかで恨みを持ったくらいしか考えがつかねーんだわ!」
「私は技術職だ!」
 両者が言い争っているうちに、伸ばしっぱなしの前髪はアマネさんにより、編み込みにされた。雰囲気チェーンジ☆と言って笑っている。リアさんも櫛やゴムを提供していたため、助けは見込めない。分不相応だけどほどくのも失礼だ、どうしよう……。
「おいそこの前髪うぜぇヤツ!」
「あ~ゴメンねっ☆ 前髪は、ボクが整理整頓しちゃった!」
「じゃあ、ネクラ! オマエが犯人ってことでこいつの相手しろ!」
「はいぃ?!」
「人に押し付けるなんてやはりキミは怪しい! 帰らないで警察を待ちなさい!」
 とても死体の前だと思えないほどの大声が飛び交う。自分がおろおろするしかない中、めちゃくちゃ~、とアマネさんは大笑いしているし、リアさんは何だ。ユキさん含めた女性たちと話している、なんか口説いてるっぽく聞こえるけど、何を話しているのだろう。あっ、ユキさんシャドーボクシング始めた。リアさんは褒めているように見える。
 ウォームアップを終えたという雰囲気を出してているユキさんが、彼氏さんに近づく。ちょんちょん、と彼氏さんの袖を引くと、振り返ろうとしたその時、ユキさんは思いっきりぶん殴った。え。
 呆然とする男性陣をよそに、女性陣は歓声を上げる。さらにカオスになった空間に突っ立っていた自分とアマネさんを、リアさんは別室に連れ出した。

「これでゆっくり話ができるね!」
 ユキちゃんは前々から強引な節のある彼氏くんに嫌気がさしてたらしくてさ、みんなですこし愚痴を聞いてたら爆発したのかな、殴っちゃった。でもこれで一般人がいなくなって堂々と話せるから結果オーライってやつだね。
 ひどく上機嫌な声、にこにことした顔でリアさんが告げる。この人はそうなるように誘導した、と直感が言っている。背筋が凍る反面、助かったという思いもあった。アマネさんも腑に落ちないといった表情をしている。
「みてみて、現場の隅っこに落ちてたやつ。何かな?」
 明るいノリでリアさんは続ける。リアさんが取り出したのは、底に少量の液体が残る小瓶だった。液体は無色透明で、たまにラメのようなものが光っている。
「わからないんですか?」
「道具系はさっぱり。それにこれ魔術由来のアーティファクトだし」
 アーティファクト、人工物、ここではTRPG用語的に科学では説明できないタイプの代物だと解釈して良いだろうか。
 うーん、と苦笑いするリアさん。何かフォローすべきかと焦ってしまう。
「あっ、舐めたらわかりますかね?」
「え? やめといた方がいい気がするけど」
 瓶のふたを開けてみる。手であおいで匂いを確認すると、ほのかに温泉のようなにおいがした。では、と瓶を逆さにして液体を取り出そうとすると、アマネさんが手袋を付けた手で瓶を奪い取った。
「何やってんの?! そんな得体のしれないモン飲むなんてバカじゃん?!」
「……わかる気がしたので」
「バーカバーカ! 犯行現場に残ってるモンが安全なわけないじゃんね! てかこれ元に戻すための薬だから! 戻る〈元〉ないヤツが摂取したら無に帰るヤツだから!」
「え、アマネさん、この瓶の中身わかるんですか?」
「ようやく尻尾をつかませてくれたね」
 あっと一瞬やらかしたという顔を見せ、低い声でうなる。それから、ひどく不機嫌な表情でああそうだよ魔術師だよ、とアマネさんは開き直った。
「でーもさぁ、ボクが協力する必要なくない? てかなんで、オマエらは事件解決にコシツすんの?」
 はっ、と馬鹿にしたように笑う。
 息を詰まらせる自分とは対照的に、リアさんは穏やかな笑みを浮かべつつ、突き放すような声音で返した。
「祈先生の眼前での狼藉は見逃せないし、おかしな人を放置していたら大切な人に被害が及ぶ可能性があるでしょう。別に一般人は放置してもいいけど、理外の人は私が把握できない理屈付けや行動をすることが多いし」
 一息で言い切る。そして、ふっと空気を緩めたのち、まあ好奇心の方が割合としては多いわけだけれど、と付け加えて閉口する。アマネさんは口に手を当てる仕草をした後、お前はという視線を自分に向けてきた。
 少しだけ考えて、どもりながら心中を吐露する。
「あの、自分は耳障りなことしか言えないので、話半分に聞いてほしいですが、自分は本来いちいち考えすぎて自傷に走る悪癖を自覚していて変えなきゃって思ってるんですけど、薬を飲んでもカウンセリングを受けても改善しなくて、でも、リアさんにご指名を受けて、真実の探りっこをしてもいいっていう許可証を貰ったって思えたら、あまりネガティブなことに意識が向かなくなったんです。だから、このまま息がしやすい状態を維持したくて。人が死んでいるのに最低な考えだというのはわかってるんですけど」
 だんだん声が速く尻すぼみになる。二人の顔を直視できない。最低なことはわかっている、という本心のはずの言葉でさえ、気づいていないだけの嘘で、言い訳なのではないかと疑心暗鬼になる。こんなだから人から避けられるのに。
 そんな自分の首を、アマネさんはしっかり視線が交わるように動かす。待って今グキッて言わなかったか。
「なんだ、みーんな綺麗事で動いてないんだ。良かった。なぜか可愛い子ぶりできてなかったし。挙句の果てに魔法使いと超能力者なんて面倒な奴らに魔術師ってバレたし、どうしよーかなーって思ってた」
 ほっとしたような顔を作るアマネさんの目は笑っていない。なんとなく、魔術師と呼ばれることに過剰に反応している気がする。
「猫かぶりのくだりはわかるなー。シモンくんの近くにいると地金が出る感じがするよね」
「えっ。あ、えーと、アマネさんも自分は超能力者だって思ってたし、リアさんが魔法使いだってわかってたんですか……?」
「わかってたよ。わざわざ殺人なんかに関わりたくないから黙ってたけど。ボクは体質がからだけど、リアの方は先生とやらに聞いたカンジ?」
「うん。先生は魔導師だからね」
「なーる。だから眼前。魔導師だったら情報掌握してんのも当然か、取捨選択してる側だし。じゃーなんで犯人知らないの?」
「先生は情報を必要最低限しかくれないタイプだからね。これ以上は有料だって言って、犯人とかシモンくんやアマネくんの仔細はくれなかったの。私も自分で調べる方が楽しいから追求やめちゃったぁ」
「そのセンセーって魔導師にしては自他の境界弁えてるタイプなんだー」
 あっはっは、くすくす、と二人して笑う。知らない間に情報筒抜けが理外界隈では当然なのだろうか、怖いなぁ。

「じゃ、アイスブレイクモドキも終わったし、本題にはーいろっ」
 アマネさんがバチンとウィンクしたかと思うと、真剣な表情になる。背筋が伸びる感覚と、魚を開くときのような不気味さを覚えた。
「魔導師センセーからある程度ジョーホー抜いてんでしょ。話して」
 了解、とリアさんは肩をすくめ、話し出した。

 第一の殺人は14時に発生。被害者は科代芳恵。死因は窒息。犯人は縄を用いて絞殺。抵抗は心情的なものからできなかったものとされる。発見は14時6分、第一発見者は科代源治。
 第二の殺人は14時25分に発生。被害者は科代源治。芳恵の夫にあたる人物。死因は出血性ショック。犯人はパン切り包丁を用いて刺殺。肺、喉、腹の順番で、最終的に8箇所刺しており、6回目の時点で絶命している。科代芳江と同じく感情の揺らぎが抵抗を弱くした原因になっている。発見は14時28分、第一発見者はおじさん……参河圭司。

「パン切り包丁で刺殺……」
 おいしいパンを切るためのものなんだが。切れ味だって悪いだろうに。
「めーっちゃ刺しにくそー」
「わかるなぁ。でも、魔導師提供の事実だしね。先生が嘘をつく利点もないし」
 わざわざ使う必要があったのだろうか。
 絶命しても刺したこと、夫婦揃って殺害した(殺人事件が2つ起こっていなければだが)こと、ギャラリーで起こったことの3つを考えると、何か意味がある気がする。
「魔法……魔術でしたっけ、あの、そういうので包丁を強化するものとかないですか」
 リアさんはアマネさんに視線を向ける。アマネさんは首を振った。
「あるちゃある。けど痕跡がないから使ってないじゃないかな。魔術は魔導師を経由していないから必ずどこかに痕跡が残るし」
 アマネさんは瓶を見せつけるように軽く振る。
「こんなものわざわざ使うんだから、魔法を使えるワケがない」
 元に戻る薬、だったか。何に利用したのだろう。発見までの時間が早かったことと関係があるのだろうか。
「こんなものっていうけど、魔術師界隈では違法扱いなの?」
「イホーっていうかぁ、元に戻すっていうのは、一度変化させたものを戻すってコトでしょ? 魔法だったら別に整合性とか気にしないでいいけど、これ魔術だから。例えるなら骨折したのを無免許で、しかもチョークで固定して治療してるようなモノだよ!」
 アマネさんはだんだんと語気を強くする。
「そんなヤバいものを、挙句の果てにそんな魔術をアーティファクトにするって何?! 引く、ほんっと」
「あの、初歩中の初歩っぽいことを聞いて申し訳ないんですが、魔術を道具化するってどんな工程を経ているんですか」
 認識に由来するものを道具化する、とはどういう原理なのだろう。疑問符を浮かべていると、ああ、と解説してくれる。
「魔術においてのアーティファクトは、魔術を使用するための時間を閉じ込めているモノ。この薬だったら、元に戻す魔術が発動したっていう事実を閉じ込めているのが液体、発動されないっていう事実でフタをしているのが瓶。魔術を付与できるヤツは滅多にいないわ、触媒……ガラスと液体部分、魔術の中の時間が固定されるっていう素材たちなんだけど、それはスゴーイ高価だわ、今は先人の遺産食いつぶしてる状況」
 たまーに安価で流れてんのはホボ粗悪品か使用時に副作用があるヤツだし。アマネさんは愚痴る。頭の中がこんがらがってきた……。
「ではでは次は、魔法を使うアーティファクトの話だね。シモンくん、大丈夫?」
 イマイチピンとこないところがあるが、とりあえず頷くと、何度でも聞いていいからね、とリアさんは笑った。物理的な色彩と精神的な輝きで目が潰れてしまう。
「といっても、正直詳しいところまでは知らないわ。うん、ごめんね。確か、魔法の方は魔導師に、これこれがこういう魔法をこんな場面でこういう理由で使うので事前に許可ください、って感じで許可貰った証拠兼即座に魔法を発動できる道具だったよ」
「魔法も魔術もよだき……大義ぃし世知辛すぎませんか……」
「うん! 先生と交渉して、ある程度は自己判断にゆだねてもらえてるけど、それでもたまにやぜか~ってなるなぁ」
「わっかる~。魔術のコーシはいーけど、足元見てくる挙句のガーダグとかホントざげんなってカンジ~」

「てことは、包丁強化はなかった可能性が高いということでいいのかしら」
「その認識でいーよ」
 愚痴で盛り上がれそうになったのに、二人はスンと話題と表情を戻した。切り替えが早くてとても尊敬できる。
「夫婦そろって抵抗できなかった心中が気になります……はい。あんなに元気だったお爺さんが驚く犯人って、親しかった知り合いだったりするんですかね……」
「ジジイが見くびってた相手の可能性もあるよ! ショーネがいじめっ子だろうし!」
「元に戻る薬の件を考えると、実は性別を変えてたりして」
「とりあえずは、アリバイ検証をしてみたいですね」
 視線を送ると、リアさんは端末を取り出し、操作する。先生さんに連絡を取っているようだ。確定している情報が足を使わずとも手に入るって凄いなぁ。
 端末を見つめていたリアさんは或るところで手を止めて、あらら、と呟くと苦笑いした。
「必要な手順を省略して情報を手に入れようとしない、って怒られちゃった。だから私が知ってるアリバイを共有しまーす」
 リアさんが話し出したのは、女性三人のアリバイだった。先程聞き出していたらしい。
 女性二人組は友人同士、大学生であり、今回ここに来たのは担当ホストが美術の話が好きだったかららしく、被害者との面識はない。第一の事件の発生当時は、一緒にスノードロップのスケッチを見ており、第二の事件の際は飲食可のスペースでサンドウィッチを食べていた。
 ユキさんが来た理由は、彼氏が来たがっていたからで、やはり被害者との面識はない。事件のときはどちらも彼氏であるショウさんと彫刻を見ていたそうだ。
「彼氏くんのアリバイも成立ってなれば楽なんだけど、彼氏くん膀胱が弱いらしくて、どっちの事件の前にもお手洗いに行ってるんだ」
 頻尿野郎が犯人だったら別れんの楽なのに、と自分の彼氏を罵っていたらしい。怖い。
「あれ? だったら彼氏くん最有力犯人コーホじゃないかな? ボクと鮎川ショーネンが話してるとき、オジサンは近くでビンボーユスリしてケーサツ待ってたし。彼氏くんだけだったら情報抜き取れない?」
 怒られたくないなぁ、と頬を膨らませながら連絡を取るリアさん。速さを求めて電話を選んだようだ。
 そういえば、あの薬はどうなるのだろう。てか、ショウさんが犯人だとしたら、デートにパン切り包丁持参してるってことに……、あ、玩具の包丁を持ってきて、デカくしたのを戻した的な、薬は飲用じゃなくて。最近の玩具メーカー凄いもんな……?
 アマネさんに聞いてみると、あれ、うん、確かに?と微妙な反応が返ってきた。クソ推理を聞かせてしまい申し訳なくなる。聴力か気分が悪くなったと言われたら治療費払わなきゃな。
 二人してうんうん頭を捻っていると、リアさんが申し訳なさそうに告げてくる。
「科代翔は被害者の血縁、孫だったよ。関係は良好。で、私たちが話し込んでいるときに第三の被害者になったし、参河圭司も第四の被害者として死んでしまったみたい」


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