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YAYACO YONEYAMA|甘蜜香水《2》蜜柑色の祝祭

 前回の甘蜜香水《1》香りのアフタヌーンティーメニューより、蜜柑色の甘蜜香水を2点ご案内します。どちらも暖かく柔らかな香り立ちで香水談話室でご紹介した際もお肌にのせて帰られる方が多かった香りです。

 「神秘主義者のジンジャーブレッド」としてご紹介した〈エタ リーブル ドランジェ〉ライク ディスはティルダ・スウィントン監修のもと2010年に発売されました。調香師はマティルド・ヒジャウイ。コンポジションをご覧になるとお気づきになると思いますがジンジャーやマンダリンキャロット、ポティロン(西洋カボチャ)……すべてオレンジ色をしています。ティルダ・スウィントンの燃えるような赤毛をイメージしています。

 ティルダが朗読するルーミーの詩が好きで何度も何度も聞いていました。ノーズショップでようやく出会うことができたライク ディスは前衛的なティルダの雰囲気からは拍子抜けするほど甘く懐かしいジンジャーブレッドの香り。わたしにとっては英会話教室に通っていたマーガレットが帰りがけに食べさせてくれるジンジャークッキーの香りそのものでした。
 ティルダ・スウィントンは香水に興味がなく、マティルド・ヒジャウイはとても苦労したのだそう。ティルダにとっては香りとは場所を意味するもの。彼女が要望したのはいつでもどこでもその場所を復元できるポータブルな魔法の装置としての香水でした。
 例えばキッチンの入り口。木製テーブルに載せられた焼き立てのジンジャーブレッド。祖父の夏の温室、ピートの匂い。ティルダが崇拝する13世紀イスラム神秘主義者ジャラール・ウッディーン・ルーミーの詩。スコットランドの魂。そこは冒険の後に立ち返る場所であり、ほっと安らげる香りでなければならないのです。

菫色連盟サロン〜香水談話室vol.3「甘蜜香水」会場風景(2020.2.23)
製菓|メリリル

 ギモーヴ ドゥ ノエル、こどもの頃のクリスマスの祝祭へと誘うまさに聖夜のための香水です。はじめてこの香りを試したとき「美味しい!」と声をあげてしまいました。マシュマロはメレンゲにシロップ加えゼラチンで固めたものですが、ギモーヴはフルーツピューレにゼラチンを加えて固めたもので果実の味がより濃厚に感じられるお菓子です。
 バニラの香りを纏わせたオレンジブロッサムが舌の上でとろけるように、粉砂糖のようにシャンパンの泡のように軽やかに香ります。『クリスマス・キャロル』で第二の精霊に連れてこられたスクルージのようにクリスマスをこころから楽しんでほしい。むしろはしゃいでみてほしい。ディケンズの生き生きとしたクリスマスの食卓の描写を思い浮かべながら男性にも使ってみていただきたい甘い記憶の香りです。

菫色連盟サロン〜香水談話室vol.3「甘蜜香水」会場風景(2020.2.23)

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