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気になる後輩〜ある週末【スピンオフ】|#短篇小説


このお話に出て来る登場人物は、以下の短篇小説と同じです。

↓ ↓ ↓


《登場人物》

斎藤知南さいとうちな…アパレルの営業補佐担当。学生時代からの彼氏がいる。

・後輩…同じ会社の気になる後輩。営業外勤。彼女がいる。


―――

《前回のハイライト》


(・・・え?此処・・・)



まぶたを無理やり開けて外を見た。
身体も意識もだるすぎて働かない。
大きなマンションが横に並んで建つ、グラウンドぐらい大きな駐車場が近づいてきた。
街から結構離れているらしく、耳がおかしくなりそうなくらい静かだ。



後輩の車の中だった。



ハンドルを器用に切って、後輩は車を停めた。


「―――ちょっと、待ってて下さい」



いつもとは違う、夜中に話すときの低く大人びた声。
後輩が運転席からずれて車から離れた。
知南だけ乗ってきたようだった。
ぼんやり霞んだ視界から、遠く消えてゆく姿を細目でただ見送った。
眠すぎて、頭が働いていなかった。



後で考えると、後輩はマンションの自宅へ戻ったのだ。知南のほうは、だるさに状況把握しきれないまま、車内で待ち続けた。



どれくらい待ったのだろう?



(―――待っている・・?何故・・・)



疑問が酔いの合間にふわふわと浮かんだ。
永遠に戻ってこないような時間が過ぎて、また眠気が襲い、知南の目がふさがっていった・・・

「気になる後輩」




気になる後輩〜ある週末




後輩が企画部に異動する半年まえ。


知南ちなが給湯室でコーヒーを淹れているとき、ふとメールが入っていることに気付いた。


開けてみると、知南の彼氏だった。

―――この週末は、仕事で会えない。


という、ごく簡単な連絡だった。


彼とは長年交際しているが、今まではそんなことはほとんど無かった。このところ頻繁に、「仕事」「出張」で会えないときが増えている。


知南の心の中に疑念の暗雲が立ち込めてきて、携帯を握りしめたまま、俯向うつむいて固まってしまった。


「―――あ、斎藤さん、お疲れです」


後輩が突然、いつものように明るく給湯室に入って来た。


「・・・・・」


知南は直ぐに心を立て直せなかった。


「斎藤さん?」不審気に顔をのぞかれ、

「・・あ、うん。ごめんね、すぐ私出るから」


コーヒーカップのホルダーを手に持ち、狭い給湯室のポットの場所を後輩に譲った。





その日は金曜日だったので、定例会のように、営業部の仲の良い5人ほどで飲みながら食事をした。


後輩は知南の向かい側に座っていたが、何回も彼と真面目な印象の目が合った。何となく、観察されている気配がした。


知南は憂さを晴らしたくて、いつもより杯を重ねた。逆に、食べるほうは箸が進まなかった。


二次会はカラオケで、これは積極的に知南は歌った。一方、喉がからからになって、何度もソーダ割りのお酒を注文した。


(あ・・・これ、水みたいになってる)


お酒を水に感じ始めたら危険なしるしだった。知南は一旦席を立って、カラオケの部屋を後にした。



案の定、足もとが覚束なくなっていて、壁に手をつきながらレストルームへ向った。


また、歌声のする部屋に戻るとき。


「―――斎藤さん、大丈夫ですか」


ドアを開けた後輩が声をかけてきた。


「大丈夫・・・別に、大丈夫だよ」


無事であることを示すために、前に進もうとしたら、知南の足がもつれた。


「―――ほら、危ない」

出て来た後輩に腕を取られ、知南は顔が上げられなくなった。


「斎藤さん。ちょっと、外の空気に当たりましょう」


エレベーターに乗ると、後輩は外へ出るときも、ずっと知南のひじのあたりを支えてくれていた。知南は酔った頭で、後輩に守られている感覚を持った。


(―――肝心の、本当の彼氏には守られないのにね・・・)


普段は思わないような、自嘲めいた言葉が浮かんだ。


「着きましたよ」促され、言われるままにエレベーターをふらふらと降りる。





カラオケ店の外に出ると、夜風が涼しかった。道路はあちこちの照明で明るく、二人の前を次々と人が通り過ぎて行った。


「ちょっと、待ってて下さい」


後輩が知南から離れ、ぼんやり待っていると、自販機で缶飲料を買ってきてくれた。


危なくなさそうな場所を示されながら、知南は後輩とふたりで、横並びにガードレールにもたれた。


「斎藤さん、飲み過ぎです」

「うん・・・」

「―――何か、あったんでしょ、彼氏と」

「・・・・・」


知南はずばりと言い当てられて、黙った。


何か言わないといけない?という反抗の気持ちと、口火を切ると、すべて打ち明けて甘えてしまいそうなこわさが混ざり合っていた。酔いも手伝って、目まいがしそうだった。


後輩も無言のまま、少し眉をしかめて煙草を吸い続けた。知南は何故か、その間、答えを求めるように、後輩の横顔を吸い終わるまで見つめていた。


「・・・戻りましょっか」


後輩は先刻さっきまで眉をしかめていたのが嘘のように、笑顔を作ってガードレールから離れ、皆のいるカラオケの部屋へ、知南をエスコートした。


そのとき、後輩の手はずっと知南の背中を優しく押していた。


・・・何だか、お父さんみたい。温かいな、と知南は思った。



【 continue 】


▶Que Song

IN THIS WORLD/MONDO GROSSO feat.坂本龍一 満島ひかり




お読み頂き有難うございました!!


このお話はスピンオフを絡めていく予定です。(あと1話)


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また、次の記事でお会いしましょう!



🌟Iam a little noter.🌟



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