気になる後輩〜ある週末【スピンオフ】|#短篇小説
このお話に出て来る登場人物は、以下の短篇小説と同じです。
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気になる後輩〜ある週末
後輩が企画部に異動する半年まえ。
知南が給湯室でコーヒーを淹れているとき、ふとメールが入っていることに気付いた。
開けてみると、知南の彼氏だった。
―――この週末は、仕事で会えない。
という、ごく簡単な連絡だった。
彼とは長年交際しているが、今まではそんなことはほとんど無かった。このところ頻繁に、「仕事」「出張」で会えないときが増えている。
知南の心の中に疑念の暗雲が立ち込めてきて、携帯を握りしめたまま、俯向いて固まってしまった。
「―――あ、斎藤さん、お疲れです」
後輩が突然、いつものように明るく給湯室に入って来た。
「・・・・・」
知南は直ぐに心を立て直せなかった。
「斎藤さん?」不審気に顔を覗かれ、
「・・あ、うん。ごめんね、すぐ私出るから」
コーヒーカップのホルダーを手に持ち、狭い給湯室のポットの場所を後輩に譲った。
その日は金曜日だったので、定例会のように、営業部の仲の良い5人ほどで飲みながら食事をした。
後輩は知南の向かい側に座っていたが、何回も彼と真面目な印象の目が合った。何となく、観察されている気配がした。
知南は憂さを晴らしたくて、いつもより杯を重ねた。逆に、食べるほうは箸が進まなかった。
二次会はカラオケで、これは積極的に知南は歌った。一方、喉がからからになって、何度もソーダ割りのお酒を注文した。
(あ・・・これ、水みたいになってる)
お酒を水に感じ始めたら危険な印だった。知南は一旦席を立って、カラオケの部屋を後にした。
案の定、足もとが覚束なくなっていて、壁に手をつきながらレストルームへ向った。
また、歌声のする部屋に戻るとき。
「―――斎藤さん、大丈夫ですか」
ドアを開けた後輩が声をかけてきた。
「大丈夫・・・別に、大丈夫だよ」
無事であることを示すために、前に進もうとしたら、知南の足が縺れた。
「―――ほら、危ない」
出て来た後輩に腕を取られ、知南は顔が上げられなくなった。
「斎藤さん。ちょっと、外の空気に当たりましょう」
エレベーターに乗ると、後輩は外へ出るときも、ずっと知南の肘のあたりを支えてくれていた。知南は酔った頭で、後輩に守られている感覚を持った。
(―――肝心の、本当の彼氏には守られないのにね・・・)
普段は思わないような、自嘲めいた言葉が浮かんだ。
「着きましたよ」促され、言われるままにエレベーターをふらふらと降りる。
カラオケ店の外に出ると、夜風が涼しかった。道路はあちこちの照明で明るく、二人の前を次々と人が通り過ぎて行った。
「ちょっと、待ってて下さい」
後輩が知南から離れ、ぼんやり待っていると、自販機で缶飲料を買ってきてくれた。
危なくなさそうな場所を示されながら、知南は後輩とふたりで、横並びにガードレールに凭れた。
「斎藤さん、飲み過ぎです」
「うん・・・」
「―――何か、あったんでしょ、彼氏と」
「・・・・・」
知南はずばりと言い当てられて、黙った。
何か言わないといけない?という反抗の気持ちと、口火を切ると、すべて打ち明けて甘えてしまいそうなこわさが混ざり合っていた。酔いも手伝って、目まいがしそうだった。
後輩も無言のまま、少し眉をしかめて煙草を吸い続けた。知南は何故か、その間、答えを求めるように、後輩の横顔を吸い終わるまで見つめていた。
「・・・戻りましょっか」
後輩は先刻まで眉をしかめていたのが嘘のように、笑顔を作ってガードレールから離れ、皆のいるカラオケの部屋へ、知南をエスコートした。
そのとき、後輩の手はずっと知南の背中を優しく押していた。
・・・何だか、お父さんみたい。温かいな、と知南は思った。
【 continue 】
▶Que Song
IN THIS WORLD/MONDO GROSSO feat.坂本龍一 満島ひかり
お読み頂き有難うございました!!
このお話はスピンオフを絡めていく予定です。(あと1話)
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また、次の記事でお会いしましょう!
🌟Iam a little noter.🌟
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