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受容〜猫と僕の日々|#短篇小説


#創作大賞2024


Chapter11.

受容




猫の鳴き声しか出せなくなったモンは、僕を見上げたまま微動だにしなかった。ふたりとも、シャワーを浴び続けていた。


シャワーの栓を締めると、モンの見開かれたとび色の瞳から、はらはらと涙がこぼれた。



全身濡れてしまった僕は、モンの顔を両手で包みこんで、やはり嗚咽が止まらなかった。


「あぁ・・お・・ぁあぅ」


しゃくりあげつつ、またモンが声を発した。


「モン・・・いいよ。此処を出よう」


僕はモンの手を取って、浴室から連れ出した。バスタオルを渡し、自分の濡れた服を脱いで着替えた。


死んだように重くふさがった心の中で、ただひとつ、明らかになったことがあった。


(モンは―――他の猫と交わって、元の「猫」に戻りつつあるんだ・・・)





それから、様々なことが起こった。


急に爪研ぎで一心不乱に引っ掻いているかと思えば、生え変わるのか、伸びた爪が横にいくつも落ちていた。


後ろ足で首のあたりを掻いているかと思えば、その部分の黒い毛が驚くほどごっそり抜けていた。明らかに「異変」が始まっていて、僕にはどうしようもなかった。


動物病院に連れて行ったが、無表情な医者は、


「季節の変わり目かもしれませんね。栄養をつけて下さい」


と一言で済ますだけだった。


―――違う。それだけじゃないんだ、と言いたかったが、モンの変身のことなど伝えられるはずも無かった。




モンは、加速度をつけて日に日に弱っていった。えさをあまり食べなくなり、ミルクや水しか飲まなくなった。身体が痩せて、ぺしゃんこになってきた。


「モン・・・どうしたんだ、元気になってくれ・・・」


もう、会社に行くどころでは無かった。泣けてきて、仕様がなかった。



―――



悩みに悩んだが、由依に連絡することにした。


「久し振りね。何かしら?」
いつものように明るい声で、気持ちが少し救われた。


「モンが・・・
モンの具合が、悪いんだ。

僕が出社している間、見てもらう訳にいかないかな?勝手だけど・・」


一瞬だけ間があった。


「―――良いわよ。・・・大丈夫」


「家から出せそうに無いんだ。僕の家で見てもらう形になるけど・・」


「うん。分かった」


前に、モンから由依の我慢について聞いた話を思い出していた。今も我慢しているに違いない。それでも本当に、由依はどんなときでも、出来る限りの力で人の望みを受け容れてくれる。


有難くて、また涙がにじんだ。


「―――ねえ?何か、いつもと違うね。
大丈夫・・・?」


僕は顔を手で押さえて、泣いているのが漏れないように、息を押し殺した。






  


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