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水槽の彼女〜カバー小説【8】|#しめじ様

この短篇小説は、しめじ様のnoteからインスパイアされてカバー小説にさせて頂きました。

↓ ↓ ↓


🌿これまでのお話🌿


▶7話(1〜6話収録)


《登場人物》




・僕…34歳。ひとり暮らし



・彼女…ハイティーン。崩壊星collapserの瞳をしている。異国のpapaから離れたがっている。



・異国のpapa…世界的な画家。



・りら…彼女の齢の離れた父親の違う妹。

「彼女」を母親だと思っている。




―――


《7話ハイライトシーン》


「―――あの・・・

どうして、私を連れてきてくれたの?
見ず知らずの、他人なのに・・・」


(中略)


(そりゃそうだ・・・気になるよな。下心あるんじゃないか、って・・)



話す前に背筋を伸ばした。急に煙草を吸いたくなったが、食事中なので諦めた。



「―――僕はさ、孤児院を出てるんだよ。

君の様子を初めて見ていて、瞳がくらいのを感じたとき、

まるで昔の僕と・・・

いや、僕が其処そこに居るような気がしたんだ。それだけさ」


優愛は僕の瞳をじっと見つめ返した。

「水槽の彼女〜カバー小説【7】」




【8】


「こじ、いん・・・」


優愛ゆあは固唾を飲んで、僕の話すのを見守っていた。


「そう。親がね・・・

【問題有り】なんだ」


もしかしたら、自嘲したわらいを浮かべてしまったかもしれない。もう何年も、こんな感情を身体の奥底に沈みこませて忘れようとしていた。


その場を誤魔化すように、太刀魚や白米をどんどん平らげた。
豆腐と、薄く切った玉葱入りの味噌汁まで音を立てて飲む。その間、優愛は僕を見て息を潜めていた。



・・・箸を置いたとき。


「―――【問題有り】って・・・?」


優愛の瞳が次第に潤んできた。
出来るだけ自分の話を早く終わらせ、テーブルから離れるつもりだったが・・・



優愛は僕の話を、興味本位でなく、聴きたいのだと思った。



「ちょっと、”これ“片付けていい?」


「―――あ、うん・・・」


僕は食べ終わった器をシンクへ運んだ。なるべくスロウに。



前の彼女にも伝えなかった話だから、少し頭を冷やす時間が必要だったのだ・・・。





もう一度、テーブルの席についた。


優愛はもう食べるのをやめて、黙って僕の話を聞く態勢になっていた。


まっすぐ優愛を見て、僕は過去を話し始めた・・・。




「―――僕の父親は、元は会社を経営してたんだ。

数人の社員だけの、零細企業でね。
それでも、それなりにやってたみたいだ。
家族で年に何回か、海外へ旅行してたからね。

・・・だけど、古くからの親友に頼まれて、金を工面して、夜逃げされたって聞いた。

まだ、子どもだったから・・・、詳しくは、よく分からないんだ。
4年生のときだな。


それで、何やかや問題が発生して、うちの会社は倒産した。



不渡り、とか言ってたよ。


長年勤めてくれた社員のおじさん達から、何とも言えない顔で頭に手を置かれたのを覚えてる。同情されたのもあったし、自分達も困ってたんだろうな。


あっという間に、会社から誰も居なくなった」



優愛は器をテーブルの端に片寄せて、


「たいへんだったのね・・・」



暗い顔で言った。


「それから・・・父親が荒れてね。
信用してた人に裏切られたのと、自分のとりでが失くなって、生きる意味が分からなくなったんだろうな、今思うと。


―――酒びたりになったよ。


玄関先で倒れていることも何度もあった。無精髭を生やして・・・
洒落者だったのにさ。何も構わなくなって。


母親はいつもおろおろして、泣いて、もう見ていられなかった。



だけど、働く人が居なくなったから、母親は生活のために夜の仕事を始めたんだよ。
近くのスナックで、手伝いみたいに働いてた。・・・何度か、母親が恋しくて見に行ったことがある。


裏口で、『もう帰りなさい』って言われてね・・・。客たちから、目立たないようにして。


父親は酒でおかしくなって、母親の顔を見ると暴れ始めたんだ。


お前、俺に愛想を尽かしたんだろうって。客にいい男が居るんだろ、馬鹿にするな!って大声で喚いてた。


・・・家の中のものを投げるから、近所にも迷惑かけてさ。警察沙汰だよ」


煙草が無性に吸いたかった。立ち上がって、台所の換気扇の下へ移動した。いつもは賃貸だから、バルコニーでしか吸わないようにしているのだが、我慢が出来なかった。
PTSDの一種かもしれない。


ビールの空缶を、灰皿代わりにした。


「―――こんな話、聞きたくないだろう?

それから、また色々こじれて、孤児院に入ることになったんだ」


「そうなの・・・」


―――


優愛にも言いたくなかった。



父親と母親がその後別居したこと。
父親は僕を離さなくて――多分独りになりたくなかったのだろう――残ったが、面倒を見れる状態ではなかった。
結局、孤児院に入った。


数年後、母親と喫茶店で面会したら、別人のようにけばけばしくなっていた。


母親は「再婚する」と言った。多分客のひとりとだった。僕に、一緒に来るか、と尋ねたが、最後まで聞かずに店を飛び出した。父親への裏切りだ、許せないと思った・・・。


―――

黙ってせわしなくふかしていたら、喉がいがらっぽくなった。煙草を缶に落として、もう一缶ビールを冷蔵庫から出した。


優愛はシンクの食器を洗っていた。僕の話を聞いて、しおれたように元気がなくなっていた。
元々ティーンエイジらしい溌剌はつらつとした印象はなかったが・・。



「―――君も飲む?と言いたいけど、まだ飲めないよね」


わざと冗談めかして声をかけた。優愛はそんな僕を見つめて、


「・・・色々、あるのね。
自分だけじゃなくて・・・

あなたにも、ね」


そうだ。勿論優愛にも「何か」がある。


崩壊星コラプサーの瞳から、今は少し違う光を宿してはいたが。
高校を中退したうえで、どうしてもpapaから離れたかった「理由」が、何かあるに違いない。


優愛はシンクをすべて片付け、タオルで手を拭いた。そして僕に向きなおり・・・俯向うつむいて、溜め息をついた。


「―――ねえ、外を歩かない?久し振りに、外の空気が吸いたいわ」



【continue】



▶Que Song

トロイ/Dios feat.DAOKO




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