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笑う白鳥

 埼玉県の北部 深谷市を流れている荒川には毎年コハクチョウが越冬のために飛来する。 

今年も飛来したコハクチョウ

コハクチョウが最初に飛来したのは昭和57年のこと。そのときの数11羽。その後餌付けに成功して、今では一大飛来地になった。
朝靄が立ち込める中で数十羽の白鳥が舞っている姿は実に美しく神秘的に映る。
その中に体毛が灰色で、やや小さめの子供も混じっている。

コハクチョウの子供たち

 コハクチョウはシベリアで夏場を過ごし、子を育て、寒さが厳しく餌が少ない冬場になる11月頃に飛来し、3月までこちらで越冬するのだ。
シベリアから深谷市の荒川までは、なんと4,000キロ程離れている。
その遥か彼方から飛来するコハクチョウは、考えてみると凄いことだ。                
現地で配られた資料によると、コハクチョウ(以降,白鳥と表現する)は家族の結束がかたく、家族単位で行動し、それが沢山集まって群れをなしているとのこと。
しかも「一夫一婦制」でつがいは生涯変わらない。

餌にするのは水草とアシ・ガマなどの水生植物。茎や根を長い首を伸ばして食べる。餌は魚と思っていた私には意外だった。

川藻を食べるコハクチョウ


白鳥達の様子をしばらく眺めているうちに、ふと考えた。
白鳥は何を楽しみに生きているのだろうかと。

その時、白鳥の中の一羽がこちらを見て笑ったのだ。
 
 その時の様子を説明すると、流れが急な川の中ほどをくるくると回転しながら流れていた一羽の白鳥が、流れから離れてこちらに向いた瞬間、私と目が合って笑ったのだ。
猪苗代湖のような湖では波が立たず、優雅に泳いでいるだけであるが、ここは急流で知られる荒川。昔には、しばしば堤防が決壊し、周辺が洪水に見舞われた場所である。昔は橋も冠水橋で大雨が降ると橋の上を濁流が流れていったものだ。そのような場所だから、白鳥も一か所に留まることが出来ずに、流されていくのである。
くるくると回転している様は、まさに遊園地と同じである。
白鳥達はそれを承知で、流れが強い中央部に敢えて向かっているとしか思えない。
それで、あまりにも楽しいものだから、思わず笑みがこぼれてしまったのだろう。その後「しまった!」という顔をしたが、私は知ってしまったのである、白鳥が笑うという事実を。
 今まで、楽しむのは人間の特権と思っていたが、鳥達も楽しみ方を知っているようだ。

そう思って観察してみると、流れているのは白鳥だけでなく、カモもオシドリも流れていく。
皆流れては仲間同志が何事かささやきあっている。その様子は見ていて実に楽しそうだ。

 突然パタパタと音がした。音がする方向を見ると、白鳥が川下から川上方向に水面を全力疾走している。
忙しそうに足をバタバタさせている格好は、優雅に水に浮かんでいる姿と違い、何か滑稽感がある。その白鳥は無事に空に羽ばたいて行った。
白鳥は体が重すぎて助走なしには飛ぶことが出来ないのだそうだ。

 やがて春の息吹きが感じられる三月になると、白鳥達は次々に故郷のシベリアを目指して飛び立っていく。
飛び立つ日は誰が決めるのだろうか?お父さんか、お母さんか、それとも家族会議か何かで決めるのだろうか?

私は一度、白鳥のシベリア行の予行演習をみたことがある。
一羽が水面を滑走して飛び立つと、その家族だろうか、次々と飛び立つ。
そして、小さな群れになり、数百メートル程の高度を保ったまま、周辺を何周もして、再び荒川に降り立つ。これを何回か繰り返す。
こうして、練習を重ねて、3月のある日、夕刻にシベリアに向けて旅立つのであろう。
 私はシベリア行きを実際に目撃したことはないが、今回飛来した灰色毛の子供が親になり、来年の冬に荒川に戻ってくることを願ってやまない。

私が書く文章は、自分の体験談だったり、完全な創作だったり、また、文章体も記事内容によって変わります。文法メチャメチャですので、読みづらいこともあると思いますが、お許し下さい。暇つぶし程度にお読み下さい。今後とも、よろしくお願いいたします。