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2022年、ベストSF短編集と言っていい!『いずれ全ては海の中に』サラ・ピンスカー

今年読んだSF短編集の中でベストとして選出する!
とテンション高めに訴えたい。サラ・ピンスカー『いずれ全ては海の中に』竹書房、22年。

SFという社会や世界に対してのちょっとした希望や、改変と、余韻の残る書き方と、そして何より著者の音楽への愛情を感じずにはいられない大変な名作ばかり。
SFらしい世代間宇宙船とか、世界滅亡後の話しもある一方で、現代のテクノロジーが音楽に与える影響など卑近な話題もある。

何よりもSFの良さを引き出す以上に、作者は物語への情緒の込め方がうまい。答えのはっきりしようのない、焦燥感が読後残ったり、過ぎ去った時間を痛いほどに思い出す、もう手におえない感覚とかを実に上手く書く話に編み込んでる。そこに読んでてハッとする。
 生きてる上で忘れしまう、いや忘れることで耐えてる日常の中にある痛みみ。誰にでも覚えのある、懐かしさとかを伴う後悔やを思い出したりして、身動き取れない一瞬があるけど、日々の生活は続けなきゃねって語りかけてくるというか。
 なんとも言えないビターな話しもあれば、いやもう一丁やってやるぜという話もあれば、ええぇ?じゃあ何が正解なん?という放り出される話もある。
激励や頑張れ!ってポジティブな言葉が辛くても、なんかちょっと情けない他人の姿を見ると、私だけじゃないんだーってぼんやり涙出るけど笑えるような、走り出せないけど、取り敢えず立ち上がれるくらいなテンションが心地良い。

もう一つの魅力は、自身がプロのミュージシャンということもあって、音楽に絡んだ短編。楽器ってこうやって扱うのか、運搬するのか、とかツアー生活大変だなとか、垣間見えないミュージシャンの生活や感覚を覗き見るようでそこも新鮮。

また、LGBTQのコミュニティの住人であるけども、それはほんのアクセント程度に言及されているのもいい。自分のセクシャリティについての物語にがっつり触れてはいなくても、さらっと言及されるとなんかホッする。
いちいちドラマチックにセクマイであることを宣言したドラマもいいけど、たまには世間にしれっと生きてる仲間もみたい、そんなときにこれくらいのテンションの本は有り難い。
(本編の謝意をあらわすページに奥様の名前を上げてて勝手にニヤニヤしました、今後も優れたSF作家として活躍して欲しい。)

以上、面白いSFを、面白い短編をお探しならばぜひ一読して欲しい『いずれ全ては海の中に』!
詰め込み書くった情報と思索を言外に感じ取りながら、出来損ないのパニック映画の毎日に憂さを晴らそうではないか。



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