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「お母さんブタのダンス」佐藤洋二郎(読書感想部)

まえがき

キャッチーなタイトルとかわいらしい表紙の絵に惹かれて手に取りました。
ページ数は100程度で児童書と普通の小説の間くらいです。
2009年の本なので少々古いですが、物語なので気にならずに読めました。
正月帰省の新幹線のお供にぴったりな読みやすくておもしろい本でした。

感想

読んでみると見た目の可愛さとは裏腹で、全く明るくないお話でした。
内容は、主人公の少年ブタの視点から豚舎の一連の生産工程が描かれているというもので、畜産家の小父(おじ)さんや少年ブタのお母さんの気持ちを少年ブタのフィルタを通して私たちに教えてくれます。
いやー、、私はこの本は全く期待してなかったけど、大当たりでした。家に1冊置いておきたいくらいです。

少年ブタの視点といっても、大人が書いているので、やたらブタが大人びているんですよね。でもそこが良いのかな、心に刺さるフレーズがいくつも出てきます。

「ものを考えていると、自分が過去にも未来にも、あるいは別の動物にもなれますから、退屈することはありません。」

本を読んでいると自然と、自分の生活や経験と本に書いてある内容がリンクするように感じますよね。
この本のブタのように、自分が他の人になったかのような感覚に陥るまで思考をすることがあるでしょうか。私は最近事情があり何日かスマホを持たない生活をしました。とても不自由で、どうにかして時間を過ごすのに、頭の中でずっと妄想を繰り返していました。
悩んでいることやこれからのことをたくさん考えました。
心配事に対しては思考することで自分なりの結論を出せた一方で、頭の中で集中して考えている最中はとても孤独でした。豚舎のブタも狭い世界の中で、制約付きの人生を一生懸命生きて、考えています。本を読みながら、そんなことを思い出しました。スマホを持たない日を月に2,3日くらいは敢えて作っても良いなと思っています。たまの孤独感も個人的には好きです。

物語の最後、クリスマスの晩に、お母さんブタが自らの出荷が近づいていることを感じ取って、少年ブタのために豚舎の柵を体当たりで壊して息子を外の世界へ逃がします。息子はお母さんに言われた通りに一直線に動物園を目指して一人でひたすら走ります。途中で一度だけ豚舎を振り返り、がんばれと励ますお母さんの声を頭の中に思い出して、走ります。
物語はここで終わるのですが、涙が止まりませんでした。人前では読まない方が良かったかも。離れて暮らしている母親が、私のために一生懸命になって私の希望を叶えようとしてくれた記憶と重なりました。
この本は家族の話です。
そしてこちらの場面は例えるなら、東野圭吾さんの「白夜行」のような風景が浮かびます。クリスマスの夜は特別な日でにぎやかな街が広がっているなかで、対照的な主人公の孤独がある、というところが似ていると思います。

最後に

「お母さんブタのダンス」というタイトルは、お母さんブタが小父さんからもう子どもを産めない年齢であることを告げられた日に、最後のメスである部分を振り絞ってダンスを踊るところからきているのですが、その部分の描写がやけに性的な描かれ方をしています。
調べてみると著者は男女関係の話を複数執筆されているようでした。
そちらの本も読んでみようと思います。

総じて、この本はとても良い本です。
もし、私に将来子どもができたら、大きくなった時に読んでみてもらいたいなと思います。子どもにはまだ早いです。大人な本なので。

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