レイナアブソルータ(第3章)

カスティーリャ建国の歴史

建国は猛然と


 当たり前と言えば当たり前なんだけど、今回の騒動から、私は自分の荘園さえ行く事を禁止され、城で軟禁状態になってしまった。まあ一般的な姫なら普通の事なんだけどね。ちょっと窮屈。
 でも兄様も父様にも叱られてしまったから、大人しく城で、乳母である侍女頭のクロエの監視の元、王族の姫さまらしく刺繍に精をだしている。
 クロエは、私の母がこの地に輿入れしてきた時に、母の侍女である彼女の母親と一緒に、この地へ来たんだ。そして父様の腹心と婚姻し、こちらの貴族となった。  
 私が産まれた時、ちょうどヒメノを産んだ頃と一緒で、その時、母の侍女頭となっていたクロエの母親が、私の乳母としたんだ。
 私にとっては、兄様の次に頭が上がらない人だ。母代わりだからね。
 王である父様は、末っ子だった私にちょっと甘いから、そんなに怖くないの。だから、この二人に怒られるのは真っ平なので、大人しくしている。
 刺繍は考え事をする時にピッタリ。手を動かしていれば、誰も何も言わない。その考え事はアヴドゥルに言われた、我が国の事。
 あの時のアヴドゥルの言葉、
「(独立国と)そう思っているのは、カスティーリャだけ」
 が、頭の中で繰り返される。
 いやそんな事はない。ちゃんとキリスト教3カ国と言われてるし、国となっている、はず。
 そうちょっと最後に弱音が出る。
 それは、アヴドゥルが言った様に、カスティーリャが世間では国と認められてない、然るべき理由があるから。
 それは、お爺さまが勝手に西の国から独立を宣言し、国としたからだ。
 我が国、カスティーリャは、キリスト教国として、この地で、ピレーネからこっちのガレシアの地で覇権争いをアヴドゥルの国としている4つのキリスト教国の内の北の三カ国と言われる国の一つ。もう一つは、アヴドゥルの国の東、バルセロナを周辺を治めている。
この4国で、アヴドゥルの国であるイスラームの大国ひとつ分の大きさにやっとなった。昔はキリスト教徒はピレーネの端に押しやられていたのだから、ここ数十年は奮闘しているといえる。
 しかし、この北の3国の仲はあまり良いとは言えないのだ。
 冬になると、イスラームの大国は聖戦(ジハード)と言い、北上し三カ国の足元を掬う様に、国土拡大を狙ってくる。そして、そのジハードに便乗し、我が国は、お爺さまの代から、東西の両国の領土を掻っ攫う様に国土を増やしてきたというのが一つの理由。
 まず、この国カスティーリャは、私のお爺さまがこの地をその時の国王、アストゥリアス国の王に、伯爵位と共に賜った事に端を発する。そう、アストゥリアス王国の一部だった。そして、王から、この地に要塞の為に城塞を築き、国を護る様に下命された。
 当時、この国は、アヴドゥルの国による度重なる聖戦ジハードにより疲弊していた。それで国王は、防壁の為、南下工作の為、城塞を築こうとした。で、沢山城塞ができた。それを見た人々が、城塞の国、カスティーリャと呼ばれる様になった。それが国名の由来となった。まあその時は伯爵領だったけどね。
 その最前線に立って、お爺さまは国を守っていたんだ。
 ところが、戦況が不利になる。丁度その頃、アストゥリアス国国王が死去した。第一王子のガレシアは己の身の危険と王位継承が危いと、この地を見捨てて、都をレオンに遷してしまい、新しい国を作り王となった。残されたのは武力を持たない平民だけだった。繰り返される聖戦ジハードに荒らされ荒廃した土地を耕す平民と、命を賭け国境を護る騎士。そう疲弊している臣民だけだった。
 お爺さまは、そんな様子を見て、なんの為に今まで最前線で国王の命の下、民の為にと戦っていたのかと。その命令をした王が、逃げてしまうのかと怒り心頭だった。まあ命を下したのは亡くなった国王で王子ではないけどね。でも王族としてはどうなの? ってはなる。
 そして、最前線で戦っている騎士を、そこで暮らしている民草を守れず、御身の保身しか考えないその国王、ガレシアを厭い始めたのだ。
「王として、民草の事を考えない、自分の身しか見えない王こそ民には必要ない。なら、残された民のためにも独立し、自治権を得れば、民を守るだけでなく、此方の思う治政が存分にできよう」
 と、そんな感じに勝手に独立宣言を出し独立を考えていた。
 まあその前に自治権を持っていたので、伯爵領が国になるだけで、何も変わらないんだけど、国の保護がなくなるから、周りの諸侯は何を呆けた事かと傍観していたが、まあ、お爺さまは騎士で最前線にも立ち、国を守ってきたのだから、問題はない。
 後は、父様の進言から、開墾令を出して、土地を耕した者にその土地を下賜するとしたり、彼方此方にあった城塞を上手く利用し、そこを腹心の騎士達に与え領地とさせ、そこを守らせた。そして、お爺さまはその郷士達と土地を開墾を始めた。
 それを見ていた農民が、この地の民だけでなく、他の領地の農民まで、流民として此方に流れて来てしまった。それをお爺さまが、開墾令を大幅解釈して、平民にも荒地を耕せば市民権を与えようと宣言したので、次々と流民が集まってきた。
 それを見たガレリア王は、その流民は我が国の民と、なら人頭税をと此方に納税を迫るが、お爺さまは、
「其方から見捨てられた民を救っただけ。其方から頂いたモノなど流れてきた流民以外には、他には何もないではないか。その流民は自らの足で此方まできたのた。さらって来たわけではない。それなのに税を納めろと。面白い事を吐かす。なら民に聞こう、どちらが民達の王に相応しいかと」
 そんな事を西の国で、朝賀の席でいい、そのまま席を蹴って王城を出奔。
 すかさず東の国と同盟をと縁戚関係を結び、その証として自分の息子にと、東の国の王女を嫁を貰う。これが私の両親である。
 そして、お爺さまの独立宣言。
 西の国と確執が明快になると、その軋轢を利用して、東の国の後ろ盾と己が武力を持って牽制する。
 すかさず、アヴドゥルの国には、西の国の王の弱体化情報を流す。聖戦ジハードの舞台として勧めた。すると、戦を避けて、お爺さまの元には、東西問わず、隣国から流民が更に集まってくる。
 西の国は、アヴドゥルの国による聖戦(ジハード)で見るも無惨な状態になってしまう。
 そこで、父様はお爺さまに、西の国の王に揺さぶりをかけるよう提言する。それは、フェリシア姉様が丁度、男子を産んだ辺りだった。なので父様は、王位継承権の持つ自分の孫に王位をと画策しての事だった。
 一方国内は、増えた民の為に、此方の王都だけでなく、住みやすい場所に街を興そうと、農民や郷士、お爺さまも混じり、ローマ人の遺跡のある街に灌漑施設、水道を修復し、ローマ人の残した街道の再整備も始めた。そうなると、街同士の行き来も活発になり、流通も活性化しできた。なら、土地にあった特産物を作らせようと、その土地、土地でお互いに補う様に、まず、特産の農産物を作る様にした。
 そう、戦で荒廃したメセタの台地には、防壁の為の城塞が沢山あったので、それを起点として、その地を郷士達に治めさせた。その者を領主として、その流民に市民権を与え領民として開拓させたのだ。
 お爺さまご自身は、腹心の騎士達と最前線で、イスラームの国が此方に北上しない様に、自分達が南下できるようにと領地最南端で戦っていた。
 そして、戦火の少ない内陸部では、農民達に開拓した広い農地を、自作農、小作農の区別もなく小麦やオリーブを。農作物を育てるのに適さない山岳地帯は、羊や豚の飼育とそれぞれに適した農産物を作ることを奨励した。
 そう、今、ここ、メセタの台地に広がる緑豊かなカスティーリャはお爺さまのお陰なんだ。
 そして、西隣の国はガルシア国王が攘夷し、私の甥がその地位に就くことになった。その上、フェリシア姉様は幼い我が子の王位を守る為に宰相位に就いた。
 だから、アヴドゥルが言う話は少し違うと私は思っている。

「クラウディア様! お手が止まっていらっしゃいますよ」
 びっくりとして顔を上げれば、クロエが目の前に立っていた。色々考えていたら、思考の渦の中に入り、刺繍の手が止まっていたみたい。
 優しく微笑むクロエは、「少しお休みしますか?」と聞き、答える前にお茶の準備を始めた。
 そして、これからクロエの長いお説教が始まるんだ。

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