今日の読書5/25
今日読んだのは、藤谷治さんの「世界でいちばん美しい」です。
※ネタバレあります。
なんとも思い切ったタイトルですね。
藤谷さんは何年も前に「船に乗る」を読ませていただきました。
最後まで読み切った時の満足感がとても大きかったことを今でも覚えています。
船に乗るは、音楽を志す若者たちの、夢や恋が丁寧に丁寧に書かれていました。
本作も丁寧なお話しでした。
音楽を愛し愛された雪駄くん、その幼馴染みの音楽に愛されなくても音楽から離れることなくせったくんのそばにいる島崎哲くん。
小学生時代の2人の関係がとても愛らしくて大好きでした。
島崎哲くんは、せったくんの才能に嫉妬しながらも、心から音楽を愛して周りから浮いてしまうせったくんを放っておけないのです。
いじめる奴がいたらイライラして助けてしまうし、泥棒と間違えられて泣いてしまうせったくんを見ると自分のことのように、苦しみ
ます。
せったくんは天真爛漫で、そんな島崎哲くんを唯一音楽を通じた友として、慕います。
島崎哲くんはピアノをやめてチェロに転向した時に、せったくんは友の挫折をわからないまま幸せいっぱいにピアノで合奏をします。
そんなせったくんと演奏をしているうちに、島崎哲くんも音楽を心から楽しみます。
そのシーンが、2人の絆をよくあわらして大好きでした。
自分の中の弱い部分を秘めながら友だちと向き合う島崎くんと、音楽が好きで好きでたまらないせったくん。
2人は高校では離れてしまいます。
大好きな音楽を家族の反対で奪われてしまうせったくんと、才能がないと自覚しているのに家族の後押しでダラダラと音楽を続ける島崎哲くんは再会し、オペラを作ったりして、2人だけの音楽を謳歌していきます。
そんなせったくんに、理不尽な悪意をプンプンに臭わせて現れるのが、津々見勘太郎です。
自分を出すことを恐れて、周りに流されていきて、だめなことは全て周りのせいにする男です。
津々見勘太郎は、ある大きな事件を起こします。
それに関して、彼が書く手紙が長々と出てきます。
読んでいて心が苦しくなりました。
自分は加害者ではなく被害者だ。自分は悪くないと、彼は何度も何度も書きます。
誰をも愛していない彼の言葉を読むうちに、怒りを通り越して虚しさが押し寄せてきました。
彼には何を言っても、届かないのだと…
嫉妬の気持ちを持ちながら友と向き合う島崎哲くんは、そんな手紙を読んだあとにもせったくんのことを心から愛して、せったくんのために小説を書くのです。
音楽の道を諦めても、島崎くんは小説家としてこの世と向き合っていたのです。
この小説を書いた、藤谷治さんと繋がっているように思えてなりませんでした。
人と向き合うこと、人を愛することその素晴らしさを噛みしめるお話でした。