【詩】傷跡
かつて体の傷を持つ人が羨ましかった
体の傷は目に見える
心の傷は目に見えない
それだけの理由
心の傷も目に見えたらいいのに
目に見えたなら心配され気遣われ
きちんとその場で癒しの機会を与えられ
傷つけた相手は周囲から追及され
謝らなければ非難される
目に見えないから気づかれず気にかけられず
癒されぬ痛みに独りもがき苦しみ
誤魔化しと無関心で
何事も無かったかのように消去される
まともな神経を持つ者なら
己の言動で目前の者が血飛沫と共に倒れたら
返り血を浴びながらも周囲の目を気にせず
平然となどしてはいられないだろうに
苦しい思い出を言語化することで葬り去り
そこから抜け出す
とあの人は言った
……強い人だと思う
傷を語るためにここに来て
語らないままに一年以上が過ぎた
多分恐れているのだ
傷を晒すために当時の痛みと向き合うことを
夜空には仄かに光る月
吹く風は月を映す水面に波紋を作る
揺れ崩れる月を見つめながら
見えない傷跡にそっと手を当てている
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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