1107 鬼りんご
(行の構成を明らかにするため、全ての行末に、本来作品には無いスラッシュを入れております。見苦しさ読みにくさをお詫びします。)
1107
或ひは口下手といふ美徳
りずろ まぢいいをんな/
つても 顔やからだつきぢやねえんだ あいつのよさは/
あほ あつちの具合なんか知らねえよ いいにきまつてるだろけどよ/
あの娘の歌だ 核心は よ/
知つてる歌や覚えてる歌 楽譜の歌 そんなもん歌つてやしねえんだ/
透明二重螺旋のよ 命の青い淵にふるへるよろこびの冷たさを だよ/
ひろがる闇をさらに包む闇のゆけど果てなき広がりの深さを だよ/
りずろは撫でるんだ あの声でよ/
あたしといふ運命の一例の これが質量なのかなあ つてさ/
そんとき その運命をなぞつておれらの歌が流れ出るんだ/
馴染んでるはずのその歌がぞはぞはぞはつと顕ち上がると/
どんだけをんなたちが波立つか/
どんなに漢らが夕立ちにけぶるか/
どんだけの聴き手がひつしでしよつきんぐぴんくの疼痛をこらへてゐるか/
んなこと りずろは考へもしねえ/
きんたま握られるみたいにそうるふるだぜ あの歌ひつぷりはよ/
なあ 不思議ぢやねえか?あのしたたかに柔らかさうなからだのだ んん?/
いったいどこに/
あんな低い勁い 太さも幅も奥行きもある大津波が仕込んであるのか え?/
どつからあんな撓めと靱りの利いた地鳴りがほぐれて出るのか/
をんなのからだに あんな勁いばねは潜んでねえだろ ふつう/
ひとりぶんのからだしかねえのに なんでその歌が草木千里を震はせ雲を揺さぶれるんだ?/
だからな りずろがいい女なのは ほんとはあの歌ぢやねえ/
あの調べが湧いてこみ上げて溢れてこぼれ出す あのからだ だろ/
思ふんだけどよ 信じらんねえけどよ/
あの声はあのからだから出てる こいつはまちがいないぜ/
だつてあの娘が歌つてんだもん/
けどよお なんで あのからだから なんだ?/
あのただただいいからだのどこにあの声が仕掛けてあるんだ?/
声は喉から出る とか あの歌聴いたら間違ひだつてわかるし/
さう あの大波動発生しすてむ 腹の中の奥のどこかの それにあの/
しつかり撓んで弾むりずむの乗りだ/
どつから解きほぐれて発ち昇んだか あのめろでいは よ/
かはいてるくせにもの憂く翳るあのひくい声だぜ/
したたかな足の裏のばねで以て流れ弾むやうなあの調べだ/
たぶんだけど 背中から重たい尻へ 太腿へ あの脂肪の乗つた重厚らいんだろ/
あの細かくふるへるしぶとい膚ぢやねえとああは歌へねえ/
どんなみつしよん背負つてりずろは地上にゐるんだろな?/
あんなをんなはほかにはゐねえ/
あんなおとこはひとりもゐねえ/
なあ あんなふうに魂を濁らせて混ぜるために おれたちは歌ひたかつたらしいぜ/
りずろ/
雌に生まれて あんないい尻で もう雌にや戻れぬ生き物だ/
りずろ/
雌に戻れぬをんなたちを気迫で薙ぎ倒し奮い立たせる/
りずろ/
雄でしか生きない生き物の雄に どうしても欠かせねえをんな/
雄でしか生きない生き物をしたたかに軽蔑する 雌にや戻れぬ生き物らしい/
なあ 人生 案外いいもんかも知れねえよな/
何がこんな寂しいんかわかんねえけどよ/
(「こどもだま詩宣言」対応 原文は行末スラッシュ無し)
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