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【連載小説】イザナミ 第三話

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 コンビニから帰りご飯を食べていると、母に「あんたその髪型汚いわよ。暑苦しい。」と言われた。それくらいほっといてくれよと思ったが、口には出さず、さっきよりも激しくカップラーメンを啜った。
 食欲を満たすと自室に戻り、オナニーをした後、シャワーで身体に纏わりついた嫌な汗を流した。別に性欲が高まっているわけではなかったが、オナニーは日課になっていた。シャワーから出るともう母は寝たようで、家はしんとしていた。自室に戻り窓を開け、もわっとした空気を感じながら煙草に火をつけた。外はパラパラと雨が降っていた。
 
 ゴミ収集車の音で目が覚めた。洗顔だけ終えると、ランニングウェアに着替え、外に出た。いかにも梅雨らしい灰色の天気だった。大学を休学してから、近所の公園の周りを毎朝ぐるっと一周ランニングすることが習慣になっていた。バイトのない日は、綺麗な汗を流すためにはランニングするしかなかったからだ。
 公園の真ん中には、白い塔があった。ランニングしている間、塔とはずっとある一定の距離が保たれていた。小さい窓があることから、おそらく塔の内部に入ることはできそうだが、その入り方もよく分からなかった。
 ランニングを終えると、基本的に母は仕事に出ていて、家は僕一人だった。自由にご飯を作り、好きな映画と本を楽しむことのできるこの時間は僕にとっての宝物だった。
 
 夕方になると身支度をし、家を出た。白い塔は、家からでも見えた。朝と全く変わらない厳然たる姿をしていた。電車に乗り、集合場所へ向かうと、もう誠は着いていた。
 「悪い、お待たせ」
 「おう、行くぞ」
 それから行きつけの大衆居酒屋に行ってお互い泥酔するまで酒を呑んだ。この居酒屋のいいところはビールが安いところと夜三時までやっているところで、逆に言うとそれ以外特徴のないところだったが、お金のない僕らにはちょうどいい場所だった。
 居酒屋から出ると、誠と肩を組みあいながらとぼとぼと歩いた。夜の繁華街は煌びやかで、僕も、みんなも踊らされていた。今だけは、この気持ち悪い湿気も心地よかった。
 繁華街から外れるようにしばらく歩くと、電灯も減り、いつもの公園が見えてきた。公園は比較的小さく、カタカナのコの字のように三方をフェンスで囲まれていて、それぞれ違った方向を向いたパンダとキリンの遊具がおかれているだけだった。遊具はかなり年季が入っているようで、目には光を宿していなかった。なぜパンダとキリンなのか、よくわからなかったが、そんなことは今はどうでもよかった。
 組んでいた肩を離し、誠と向き合う。誠はハイになっているのか、笑顔で、力士の土俵入りのように地面を両手で叩いた。
 「いくぞ!」


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