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【連載小説】イザナミ 第六話


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 誠と解散して家に帰ると、電気はすべて消されて静まり返っていた。部屋に戻り寝る支度をしていると、急にさっきの便所の落書きを思い出した。写真を見返すと、やっぱりそこには「オメコダイヤル」と書かれていた。オメコなんて、僕らの世代では誰も言わない。電話をかけてみたら中年のおばさんが出てくるのだろうか。気になったので、電話をかけてみることにした。
 呼び出し音が1分ほど続いた。
 もうやってないのかな、と思い切ろうとしたその時、
 「お電話ありがとうございます。オメコダイヤルです。」
 という声が聴こえた。
 「あ、もしもし」
 「はい」
 予想していたよりも、ずっと綺麗で細い声だった。
 「公園の落書き見てかけたんですけど。」
 少し間を空けて、
 「ご予約ですか?」
 と携帯は発した。
 「そういうわけではないんですけど、気になって。」
 「そうですか。」
 「メニューはなにがあるんですか。」
 「そうですね、テレフォンセックスからデリヘルまで。基本的にNGはありません。」
 あまりにも堂々とオメコだとかセックスだとかいうから、おかしく思ってしまった。
 「バックにゆすり屋とかいませんよね?」
 フフッと彼女は笑った。
 「いませんよ。」
 「それはすべて、あなたが担当するんですか?」
 「そうです。」
 「なかなか、珍しいですね。個人経営だ。」
 「まあそういうことになりますね。」
 「なるほど、じゃあテレフォンセックスでお願いします。」
 「かしこまりました。いつにされますか?」
 「今からとかは厳しいですよね」
 「ちょっと厳しいですね。個人情報をホームページに登録していただかないといけないので。」
 「ホームページとかあるんですね。個人経営なのに。」
 「簡単なものですが。オメコダイヤルと検索したら一番上に出てくると思いますが、リンクも申し上げましょうか?」
 検索したら確かに一番上に出てきた。「オメコダイヤル お手軽テレフォン30分2980円~」と書かれてある。
「ああ、大丈夫です。見つかりました。」
「一応ホームページでもご予約していただけるので、もしお決まりでないようでしたら、後日そちらからご予約ください。」
 「分かりました。じゃあホームページから予約しておきます。」
 「かしこまりました。ほかに用件はございますか。」
 「いえ、ありません。ありがとうございました。」
 「こちらこそありがとうございました。
  またのお越しをお待ちしております。」
 ティロンという軽快な音と共に電話は切れた。


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