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映画的な小説。伊坂幸太郎さん「777 トリプルセブン」を読んで

このnoteでは、他の人が書いた小説について触れることはほとんどないです。無名の新人小説家として「同業者」の作品をあれこれ述べるのはマナー違反な気がするからです。批評なんて大層なことはできませんしね。

だけど、ちょっと語りたい小説を読んだので、紹介させてください。
伊坂幸太郎さんの「777 トリプルセブン」です。超一流作家である伊坂さんの最新作です。
伊坂幸太郎さんの小説はほとんど読んできていて、伊坂さんの作品の影響を自分の小説は大いに受けていると思います。

面白いのは当然として、井坂さんの小説を読んで凄いなと思うのは、文体です。
「777 トリプルセブン」は殺し屋シリーズの最新作で、あるホテルに殺し屋が集合し、しっちゃかめっちゃかなことが起こります。
登場人物はかなり多く(二十名以上?)、四人以上の三人称視点で物語が展開していきます。
普通の作家ならとても書ききれず、読者を混乱させてしまうと思いますが、「777 トリプルセブン」では読んでいてすんなりと世界に没入できます。

その秘訣のひとつは、次々と変わる視点です。8ページから10ページ毎に視点が変わっていくことで、展開がスピーディーで読者を飽きさせません。他の視点人物を忘れそうになる絶妙なタイミングで、その人物の視点が登場するので、読者は小説に釘付けになります。

文体も凝っています。
伊坂さんの小説では、よく使われるのですが、鉤括弧が連続するところが随所にあります。

「十五年前だから、俺がこういう仕事をする少し前の話だ」エドが説明した。
「俺、小学生だ」「わたしも」「その人、今どうしているの。男? 女?」

伊坂幸太郎著「777(トリプルセブン)」36ページ

台詞を表す鉤括弧の文のあとは、改行する場合がほとんどで、たまに地の文を続けて書いて次の鉤括弧に繋げる書き方がありますが、伊坂さんの場合、改行することなく台詞が連続することがあります。
地の文で続ける場合は、大抵同じ人が語っているのですが、伊坂さんの小説では同じ行で複数の人が語ることもあります。
改行が多いと、読者の視線が動きすぎて読むのに時間がかかり、スピーディーに感じ取れないからだと思います(ご本人に聞いたわけではないので、そういう意図が本当にあるのかわかりませんが)。
全部の会話が改行なしに繋がっているわけではありません。会話の流れや内容によって、少し間があると思われるシーンでは普通に改行しています。
会話のスピードを文の書き方で調整しているのです。読者の読む速度を完璧にコントロールしているわけです。
これって、すごいことですよね。

これらの効果で、登場人物が多い複雑な内容を読者にスムーズに伝えることができるわけです。
小説なのに映画を鑑賞している気分になります。ご本人に聞いたわけではないですが、映画的手法を小説にとりこんでいるのだと思いました。
以前からもその傾向がありましたが、本作では映画っぽさがより洗練されています。
二年前に公開された「ブレット・トレイン」の影響を受けているのではと勝手に妄想してしまいます。
「ブレット・トレイン」は伊坂さんの殺し屋シリーズ「マリアビートル」を原作にしたブラッド・ピット主演のアクション映画です。ハリウッド的アクションが満載で内容は原作とかなり違っています(というかほとんど違う)。
ですが、物語のスピード感は殺し屋シリーズに通じるものがあって、本作の「777 トリプルセブン」を読んでまず思い浮かべたのは「ブレット・トライン」でした。
逆輸入じゃないですけど、自分が原作を書いた「ブレット・トライン」の映画を観て、そのスピード感を小説で再現してみたんじゃないかなと勝手に想像します。

「映画的な小説」みたいな表現をよく使いますが、本作ほど映画を感じた小説は珍しいです。
本当に勉強になりましたです、はい。


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