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「葬送のフリーレン」に見る終わった後の物語

今更言うまでもないですが、「葬送のフリーレン」面白いですよね。漫画もアニメも素晴らしく、火の打ちどころのないストーリー展開と魅力あるキャラ設定だと思います。

僕がもっとも惹かれたのは、「終わった後の物語」というところです。「葬送のフリーレン」は、勇者ヒンメルを中心としたパーティーが魔王を倒した後の物語です。言ってしまえば、後日談です。
昔から僕は「終わった後の物語」に惹かれる傾向にあります。情熱的な恋をして別れた後のふたり、引退したスポーツ選手の人生などですね。
多くの物語では、登場人物が栄光に向かって突き進んでいきます。ファンタジーであれば魔王を倒したり、スポーツものであればライバルに勝利して優勝したり、ふたりが愛を確かめ合ったり(もちろん、その逆で終わるお話もたくさんあります)。
でも、人生は勇者を倒しても、大恋愛をしても、大会で優勝しても終わりません。多くの場合、その後の人生の方が長く続くわけです。
昔のような目標を持てずに、過去の栄光を懐かしみながら過ごす日々。そのような静かな暮らしで出会う新たな発見。

「終わってしまった後の物語」は、そこまで多くはありませんが、いくつかあります。僕が思いつくのはオースターの「ムーン・パレス」ですかね。ムーン・パレスの主人公は家も失い、そのあとは出会った彼女も失います。それでも物語も人生も続きます。主人公が出会う老人もまた「終わってしまった後の人生」を過ごしていました。

「葬送のフリーレン」は、長命種のエルフを主人公にすることで、過去の終わった物語を振り返りながら、新しい物語を紡いでいくことが可能になっています。
人間が主人公なら、なかなかこうはいきません。若いときの物語を振り返っているうちに歳をとってしまうので、若いときの気持ちで新しい物語に向かうことが難しいです(フリーレンも歳はとってはいますが)。
今までの「終わった物語」で止まらず、「終わってから再生する物語」を過去と近い視点で描いているところが、僕にとっての「葬送のフリーレン」の魅力です。

僕も、過去に「終わった物語」を取り上げたことがあります。「空っぽな未来」は、終わってしまったふたりの話です。「タイムスリップ・ロックンロール」もピークを過ぎたアーティストの話でした。

どの人生にも光が当たる瞬間が一つや二つはあると思います。スポーツで勝利するような大きなイベントだけではなく、一言二言の何気ない会話だったり、街での偶然の出会いだったり。その温かい光のシーンを大切にして生きている人もいるでしょう。
その思いを大事にしつつ、新たな再生の物語を小説として描けたらいいなと思っています。

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