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【エッセイ】『魔法使いになる私へ』第3回「悪徳恋愛カウンセラー」

第3回「悪徳恋愛カウンセラー」

恋愛カウンセラーの8割は地雷である。
臨床心理士のように大学・大学院で心理学を学んできたわけでもなく、ネットに転がってる恋愛カウンセラーの資格講座でほいほい資格を取って、「私は恋愛カウンセラーです!」と自称しているとしたら、そいつは確実に地雷である。

そもそも本物のカウンセラーは結婚相談所のような組織に属している人(身元が信頼できる人)であり、自分を恋愛カウンセラーとは大々的に名乗らないし、営業目的で生計を立てるものでもない。

そんな悪徳恋愛カウンセラーにだまされて、地雷どころかクラスター爆弾くらって死んだ時の話。

2021年2月。
新型コロナウイルスによる2度目の緊急事態宣言が発令されていた。
その影響でマッチングアプリでいくらマッチングできても、肝心のデートができない状況が続いていた。しかも自粛生活で人との交流が全くなかったから僕は精神的に参っていた。

そんなある日。
近所に恋愛カウンセラーがいると聞きつけた僕は、大金はたいてそいつを頼ることにした。

カウンセリング室はきれいな家のリビングというか、すごく落ち着いた空間だった。
アロマも炊かれていて、BGMにはエンヤの『Orinoco Flow』が流れていたから、リラックスして思いの丈を吐き出せる雰囲気だった。
今思えば、それもある種の演出のひとつだったような気もする。

悪徳恋愛カウンセラーは30代半ばくらいの小柄な女性。プロレス好きということで名前を悪役レスラーの蝶野としておく(蝶野正洋さんが善人なのは存じております)。

僕は深刻に悩んでいたので、「恋愛経験ゼロでここまで来ちゃって、アプリもうまくいかなくて、しかも人との交流もないから本当につらいんです」と真剣に打ち明けた。

「ああそうだったんですか〜」
「なるほどなるほど〜」
「わかるわかる〜」

ここキャバクラじゃね?
てかコイツ、何もアドバイスしてねーじゃん!!
そう。この蝶野という女は適当に相槌打ってるだけの給料泥棒だった。
アドバイスするとしても自分が歩んできたつまらない人生教訓を常套句のように話すだけで、こちらとしては何も役に立たなかった。
だけど他に頼れる人がいなかった僕にとってはこの蝶野だけが命綱だった。

英二郎「ホントに行き詰まってるんです……。毎日AV見ながらオナニーしてます」
蝶野「ゲッ!」
英二郎「なんなら今朝もしてきました」
蝶野「ゲゲッ!」
英二郎「こんな生活うんざりですよ。もう俺……、一線越えそうですッ!!!!」
蝶野「あの」
英二郎「はい……?」
蝶野「あなたの恋愛は」
英二郎「……」
蝶野「他の人より10年遅れてます」
英二郎「えーーー!!!! ジュウネン!!??」
蝶野「でも大丈夫です大丈夫です、今から取り返していけばいいんですから」
英二郎「ジュ、ジュウネン! ジュジュウネン!! ジュウネンッ!!!」
蝶野「実は今月末、渋谷で街コンがあるんです。こちらも審査をしていますので、選び抜かれたハイスペックな女性しか来ていません。よかったら参加しますか?」
英二郎「行キマーーースーーーー!!!」

錯乱状態となった僕はまんまと蝶野の術中にはまってしまったのだ。
ということで僕は渋谷のバーで開催される、男性参加費5000円、女性無料という謎のハイスペック街コンへ繰り出すこととなった。

「ここに行けばすべてが解決される! 俺のバラ色の人生がこっから始まるッ!!」とマジで信じていた。

だが、この時点では僕はこの女にだまされていることに1ミリも気づいてはいなかった。
そして、まだ地雷すら踏んでもいなかった。
むしろ、時限爆弾の起爆スイッチを入れてしまったという表現が正しい。
これから待ち受ける本当のデスマッチの始まりに過ぎないのだから。


ちなみにカウンセリング料金は2時間で3万円でした。
(次回へつづく)

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