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【エッセイ】『魔法使いになる私へ』第5回「そして投資詐欺パーティーへ(前編)」

第5回「そして投資詐欺パーティーへ(前編)」

そもそも街コンで知り合った人間からホームパーティーに誘われること自体おかしい。
なぜなら街コンは、出会いのない男女が交流していく場、恋愛へ発展させていく場であって、別のパーティーに誘われる場所ではないからだ。
だって街コン自体がパーティーなんだもん。

だけど当時は緊急事態宣言で自粛生活がずっと続いていて、とにかく人との交流がほしかった。平常時だったらそんな所には行かないのだが、自粛生活や暗いニュースをずっと目の当たりにしていたから精神的に参っていたのだろう。

そして何よりもこのホームパーティーの幹事が、「ハイスペック街コンの主催者もやってる」と言っていたからちょっと信じてしまったのだ。

約束の日。街コンで知り合った女性と待ち合わせて、麻布十番のマンションの一室へと向かった。
この人は大手生命保険会社に勤める生保さんという29歳の女性。名刺も渡してくれたから、信用できる人だった。

マンションに入ると、5、6人ほどの男女が集まっていた。
年齢層はバラバラで、20代の人もいれば、50代の子持ちの女性もいた。
「へえ〜! 色んな人がいるんだな〜」
穏やかな人たちしかいなかったので、僕は完全に安心しきっていた。

このホームパーティーの主催者は、スズキという30歳の男性。
都内に飲食店を5軒構えている。それだけじゃなくて、副業でアダルト系のオンラインサロンも開いていて、そこでも多額の報酬を得ていると自慢げに話していた。
元々は俳優志望で、以前は某大物俳優の付き人もやっていたという。
これもどこまで本当かはよくわからないが。

周りの参加者はまともな印象だったが、このスズキという男だけはどうも胡散臭かった。

「僕は今、環境保全に力を入れていますッ! 全力を注いでるんです!! 今、環境破壊によって沖縄の珊瑚礁が絶滅危機に瀕してます。でも僕は沖縄の珊瑚礁を守りたい!! ということで今朝、スイスの外務大臣と会食してきましたッ!!!」

出たー出たよ出たよ。コイツもただの詐欺師じゃねえか(笑)。
なんか羽賀研二思い出すわ……。
スズキは、おとなしそうな僕を洗脳させようとしているのか、強烈な勢いで一気に捲し立ててきた。
だがずっと話を聞いていると、「今朝はスイスの外務大臣と会食してきた」と話していたにも関わらず、別のタイミングでは「今朝はここでゴーヤチャンプル作ってたんだよ」と切り出すこともあって、会話に明らかな矛盾があった。

それを指摘するとトラブルになりそうな気もしたから黙ってやり過ごしていた。
そんな僕の気持ちを察したのか、生保さんが僕の隣にやってきて、
「あんなこと言ってるけど気にしないでね。いつものことだから。でもスズキはとってもいい奴だよ」と、ニコニコっと微笑んできた。

周りを見ると、「まあいつものことだから」という反応だったので、他の参加者もスズキの態度に難色を示している人は誰もいなかった。

パーティーは大盛況のまま終わり、僕は何事もなく家路へと帰っていった。
スズキは帰り際に、僕にこんなことを言ってきた。
「ここにくれば、女の子でもなんでも英二郎さんの欲しいものは全部手に入る! あんな街コンなんて比じゃない。英二郎さんの人生はこっから始まるッ!!!」

実家に帰って母親に相談すると、
「嘘に決まってるでしょ! もう行っちゃダメだよそんなとこ!!」と止められた。
「やっぱりそっか……」と納得しつつ、「でも、ちょっともっかい行きたいんだよね!」と言い返して母親を呆れさせてしまった。

実をいうと、僕は会社員の傍ら、シナリオライターの活動もしている。今回の件は脚本のネタにできるんじゃないかという打算があったのだ。
謎のジャーナリスト魂に火が着いた僕は、
「全部自己責任で行きます!」と母親に宣言。
マンションの住所と部屋番号を伝えた上で潜入取材を決行した。

「刑事ドラマ散々観てきてるから、犯罪者とのやり取りはだいだいわかる。なんかヤバいことになりそうだったら古畑任三郎の真似すれりゃどうにかなんだろ!」という根拠のない自信を武器に、僕は生保さんに連れられて2度目のホームパーティーへ繰り出した。

(次回へつづく)


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