小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』【基礎教養部】
800字書評は公開までもう少しお待ちください。
多様性のために死ぬ
本書のネタバレになるが、「生物はなぜ死ぬのか」に対する生物的観点からの答えは「多様性のために死ぬ」である。
生物は、激しく変化する環境の中で存在し続けられるように、誕生し進化してきたものである。そのために生物は遺伝情報が異なる子孫をたくさんつくる。多様な「試作品」を作り、その中で環境の変化に適応できたものが生き残るという仕組みとなっている。
「試作品」を作成するのに重要なのがそのための材料の確保であるが、その方法として手っ取り早いのが、古いタイプを壊してその材料を利用することである(ターンオーバー)。簡単に言うと、これが生物が死ぬ理由である。
最近はやたらと「多様性」を重要視する社会になりつつあるが、以上のことを踏まえると、「多様性」を大事にしなければいけない理由の1つに「我々人類という種の保存」があげられるだろう。種の保存という生物学的な本能のために生まれてきた「多様性」を自ら潰してしまっては種の保存の確率を下げることになってしまう。
(だからこそ「多様性」を大切にして差別などのない社会にしよう、と言いたいところだが、多様な「試作品」をたくさんつくって、その中で環境に適用できたものが生き残る、ということから考えると、差別などはその過程で必然的に起こっていることなのかもしれない。つまり、進化を逆にたどると多様な「試作品」をつくったおかげでその中の一部が生き残ることができて生物が地球上に存在し続けられていると言えるが、時系列順に考えると、多様な「試作品」の多くは選択されずに死んでいったものであり、差別などはそのような選択の過程で生まれる必然的なものなのかもしれない。※これは生物学的に考えたものであって、差別などを肯定しているわけではない)
AIとの付き合い方
ここ最近、AI(人工知能)の進化が凄まじい勢いで進んでいる。ChatGPTをよく研究などで使用しているが、最近のChatGPTの精度はかなり高いものとなっていて、AIの進化のスピードの速さを実感する。
AIは人間と違って死なないため、人間のように「死んで次の世代にバトンタッチ」を繰り返す必要もなく、世代を超えて進歩が可能であり、AIの能力が変化するために要する時間は人間などの生物と比べるとかなり早い。そのため、いつかAIが人間の能力を超えて人間が制御できなくなり、人間がAIに服従する社会になってしまうのではないかと、著者は警鐘を鳴らしている。
そして、ヒトがAIに頼り過ぎずに人として楽しく生きていくためにはどうすればいいかという問いに対して著者は以下のように述べている。
ちなみに、気になったので、ChatGPTに「人間の死についてAIとしてどう思うか」聞いてみた。
ここで、「死そのものに対する感情的な反応や価値観を持つことはないため、人間が抱く複雑な感情や哲学的な問題に対して共感的な立場を持つことはできません」と述べられているのが大事だと思う。このことを意識しておかないと、人にとって悲惨な結末を迎えてしまうかもしれない。AIはツールとして使うには非常に便利なものであり、今後生きていくためにはAIをいかに有効活用するかが重要になるだろう。しかし、それと同時に「AIは死なない」ということも頭の片隅に入れておくことも重要である。